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◆甘くて甘いお菓子
襖の奥に現れたのは真っ赤な部屋だった。
建物の外観と同じ、漆塗のような鮮やかな朱の色。それが壁はおろか柱から欄間に至るまで、何もかも全部に塗られているのだ。まるで一つの赤以外の色を許さないといった物々しい雰囲気に、ぼくは背筋に冷ややかなものを走らせた。
そして異様なのはその赤さだけではなかった。
床の間には、大小様々な、膨大な数の達磨が飾られている。もちろん達磨は赤達磨だ。それらの達磨を従えるように、これまた立派な赤塗りの二段高くなったところに赤福様こと――赤間福二はいた。
幹部の二人が「とてもお優しい方」と称する通り、確かに見た目は七福神の恵比寿様のような、優しそうな顔をしてはいる。
「ようこそ、赤間です。遠くからよくおいでで、ご苦労様です。支部の少ない、まだ小さなものですからね、わざわざこちらまでおいで下さって。わたしはあなたを心より歓迎いたしますよ」
物々しい部屋の物々しい玉座に構えている割に、顔付きを裏切らない諦念を得た老年のようなやわらかい口ぶりで赤間は話した。そしてこの物言いからはなかなか想像しがたいが、ネットの情報が正しいならば赤間はまだ五十代のはずだった。
「よろしくお願いします……」
決して赤間からは神々しさはもちろん威圧感の類の一切を感じなかったが、ぼくはこの赤に圧倒されたのと新宗教への入信という状況で何を言ったらいいのかを知らないのとで、それしか言うことができなかった。
赤間の細目がぼくの何を見定めていたのかは分からない。だが十数秒の永い沈黙を守ってから、赤間は言った。
「いいねぇ。……じゃあ斉藤君、猪狩君。アレ、用意して」
「畏まりました。――猪狩」
斉藤さんが承知し、猪狩さんは頷いて斉藤さんに続く。初対面の、カルトな団体で神と称される人間と二人きりになるのはいろんな意味で恐ろしかったが、ぼくの困惑をよそに幹部の二人はあっという間にこの赤い空間から出て行ってしまった。
「まあ、お座りなさい。座布団あるでしょう」
「あ……失礼します」
真っ赤で広い書院には旅館の座敷ように、詰めれば六人が膝を合わせられるくらいの大きさの、赤い座敷机と赤い座布団が用意されていた。四枚並んだ座布団の一つに、ぼくは腰を下ろした。
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