◆甘くて甘いお菓子

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――おかしい。ぼくは思った。  ぼくは、ぼくにあてがわれた一人部屋で思い詰めた顔でお菓子を睨んだ。言わずと知れたM県の名物、ここの教祖と同じ名をしたあんころ餅である。赤間が用意させた「アレ」とはなんと、この餅だったのだ。  赤間はこのお菓子が本当に大好きで、少しでも特別なことがあるとそれにかこつけて、幹部や信者とともにこのやわらかな餅を食して和気藹々と過ごすらしい。ぼくも例に漏れず、斉藤さんと猪狩さんと赤間という奇妙な白服たち(仲間)と共に、あのあと座敷机を囲んでこのあんこにまみれた餅を食べることとなった。  猪狩さんは緑茶を淹れる天才で、濃くて冷たい緑茶が過ぎるほどに甘い餅によく合った。  そして赤間は斉藤さんと猪狩さんとはもちろん、初対面のぼくを含めた、少なくない信者と距離が近いようであった。  宗教というのは、信じるのならば来る者が何者でも歓迎をする最たるもののようにも思うが、それを差し引いても、赤達磨教の組織としての風通しの良さを感じた。  ぼくはあのトンデモない赤い空間にいながら、認めたくはない心の解放の感覚を味わっていた。  同じ境遇にいる人間と、同じ美味しさと居心地を共有する。  開かれた座敷からは田舎の澄んだ匂いが入ってきて、自然の風景や景色に心が向いたのはとても久しぶりだと思った。夢衣子がいなくなってからこんなリラックスをした、ささやかでいて偉大な幸福の時間を一瞬でも過ごすことができるなんて、ぼくは思ってもみなかった。  だから、おかしいと思ったのだ。こんなオカルトな宗教の大元の地でこんな気持ちを味わったなんて、認めたくはない。  ドンドンと襖を叩く音でぼくの回想は断ち切られた。パッと顔を上げる。 「はい!」 「あんたが生駒サン?」 「え……そうだけど」  乱暴に開かれた襖の先、突如不躾な態度で現れたのは高校生くらいの男の子だった。驚くべきはその制服である。  チェック柄のスラックスと紺色のサマーニットベスト、白いカッターシャツとボーダー柄のネクタイ。そう、黒服ではなかったのである。
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