◆甘くて甘いお菓子

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「東京から来たってほんと?」  ここへ来てから黒服の人間に会っていないので、赤が魔除けの色と言うのを信じそうになる。  ぼくは次々現れる黒服以外の人間に戸惑いながらも、当然の質問を男の子に返した。 「本当だけど……というか、きみ。どこから来たの? ここの人?」 「そうだよ、このワケ分かんねー宗教団体の家の子だよ。そんなことより生駒サン、俺を東京に連れてってよ」 「えっ」 「まさか、あんたも完全な信者なの? 勘弁してよ」  ふぅーと仰々しい溜息をついて、赤間の息子らしい少年はずかずかと入室してきた。  ぼくの九十度隣に腰を下ろし頬杖を突いた彼は、ぼくの手元のお菓子を見下ろしてあからさまに侮蔑の色を浮かべる。  ぼくは学生に言い訳するように咄嗟に言葉を紡いだ。 「いや……ぼくは完全な信者というやつではないけど。それより、まずきみのことを聞いてもいいかな? いきなり知らない子を東京に連れて行くわけにはいかないから」  そう言うと、しぶしぶといった様子ではあったが男の子は話してくれた。  彼は赤間成彦(なるひこ)――高校一年生の、正真正銘赤間福二の息子だった。  最近クラスメイトに父親が赤達磨教の教祖だとバレて、そのせいで学校でイジられていて嫌になっているから、パーッと東京にでも遊びに行きたいのだと言った。  ぼくは軽く話を聞く感じを装って、成彦君を観察した。  家が宗教をやっていることは、多くの制限があったり自ら言いふらしたりしなければ十代の学生にはあまり影響はないようにも思う。が、赤達磨教である。ここが赤間家の住居でないにしろ、狭い田舎で赤い異様な建物に不気味な赤装束姿の人間たちが出入りしているなんて目立ちすぎている。ここが何の施設で代表が誰なのか含め、ご近所で悪い噂しか立たないことくらい火を見るよりも明らかだ。  だからぼくはすぐに察した。イジられてるという言い方をしたが、きっと彼はひどいイジメに遭っているのだろう。  成彦君は年の離れた父親である赤間にどこも似ることなく、せっかく整った目鼻立ちをしていたが、目元が浅黒く肌がひどく荒れていた。  この暑さなのに長袖のシャツを着て律儀に袖ボタンまで留めていて、見れば手首に包帯を巻いているようだった。そしてその手首もいやに細い。何も知らないぼくでも、精神的にかなり追い詰められているように見えた。  “東京に連れてってよ”――。つまり彼は、自分のことを誰も知らない場所へ逃げてしまいたくなっているのだ。
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