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◆嘘は殺人の始まり
翌朝、朝早くに起こされ、ぼくは布団の横に丁寧に畳まれた赤装束に袖を通した。真っ赤な衣装は異様だったが、これも潜伏調査の為だと腹をくくった。
布団を上げたあとすぐに掃除が始まり、朝食はそのあとだった。
ぼくが敷地の掃き掃除をしているとき、学校に向かうらしい成彦君に会った。
「早いね。いってらっしゃい」と声を掛けると、成彦君は「いってきます」と言って通りすぎて行った。とびきりの笑顔ではなかったが、それでも東京に行くことが今週を乗り切る糧になっているらしいと判った。
ぼくは赤間が許せば、成彦君が落ち着くまでどうにか東京で世話できないか打診してみるつもりにまでなっていた。成彦君は白服でも黒服でもない、喪に服す前の世界を生きる無垢な少年だったのだ。
あの後も成彦君と話していて分かったことがある。成彦君の制服姿が通常の色に見えたのは白服だからではなく、ぼくが黒服の現象に陥る前の世界を生きる者だからだった。
世界が喪に服す現象の謎は深まるばかりであるが、つまりこの世界には、成彦君のように通常の世界を生きる無垢の者、先天的、後天的に関わらず何も知らない黒服の状態で生きる者、ぼくや赤間たちのような白服の者、夢衣子のように記憶を失った元白服の黒服がいるということになる。
夢衣子を白服に戻す方法を必ず見つけ出したい。白服の夢衣子に会いたい。そのためにぼくは数日だけでも赤達磨教に潜伏するわけだが、同時にぼくは、成彦君からの信頼を決して裏切りたくないと思った。だから、赤達磨教に手掛かりがなさそうだったら早々に見切りをつけて、必ず東京に戻ろうと思った。無垢な成彦くんに会えただけでも、ここに来れてよかったと思った。
「生駒さん、八時になります。朝食にしましょう」
「あっ、はい」
斉藤さんがぼくを呼んだ。ぼくは頷いて、朝食の準備をするために急いで納屋に箒を片づけに向かった。
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