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午後十三時、赤達磨教の行事が始まった。
今日はなんと年に一度の赤達磨祭とやらの日だそうで、さらには幹部――言わずもがなぼくのことだ――の就任の儀も執り行われるとあり、いつもより大々的なものになるらしい。
つまり赤間はぼくがここへ来ると確信して、年一の行事の日に合わせてぼくを勧誘し、事前に全国の信者をこんな辺鄙な土地へ呼び寄せたことになる。そう、今日は数千人にものぼる全国津々浦々の赤達磨教の教徒たちが、この総本山に集まるというのだ。
ぼくが泊まる座敷や赤間に出会った真っ赤な書院のある赤壁の建物に、増築される形で造られた赤い近代的な建物――赤達磨会館の舞台袖に集められたぼくは、ここで初めて他の信者を目にした。
赤い座席で埋め尽くされたホール。そこにぼくと同じ装束衣装に身を包んだ人々がずらりと並び、ざわざわとした声で盛り上がっていた。例によって目しか見えないが、中高年や老人ばかりでなく、意外と若い人間も居るように見えた。
しかしこの大勢の中には、真っ赤な装束姿の者はいなかった。つまり皆、黒服で忍者そのものの風貌だったのである。
やはり、黒服の脅威を知る赤間率いる赤達磨教の信者と言えども、白服の集まりというわけではなかった。
ここにいる人間は別に、他者が皆一様に黒服に見える超常現象に巻き込まれているわけでもないのに、マーセスという悪の存在とそれを滅する赤間の神の力を信じきっているということだ。
一度堕ちかけたぼくが言うのも変なのだが、というよりも説得力があるのかもしれないが、ともかく宗教や信仰とは不思議なもので、そして人間とはつくづく弱い生き物なのだなと感じた。それから、集団心理の恐ろしさもである。
世界が喪に服した、全員が全員黒ずくめの服を着ているという異様な光景を知っているからこそでもあろうが、皆一様に怪しげな赤装束に身を包み、よく分からない教祖の言葉を正しいものと信じ切り必死に耳を傾ける異様さが彼らには分からないらしい。
きっと初めはちょっと怪しい、と思っていた教徒もいただろうに、いつの間にかこの赤い色に違和感を覚えなくなっているのだろう。まさしく、朱に交われば赤くなるそのものだ。
だから今は分かる。赤間は常識や偏見を疑えというようないかにも立派な教えを言っているが、己の宗教を広げ金と名声を得て気持ち良くなっている赤間もまた、もう一人のマーセスなのである。
教祖と教徒の距離が近くても、教徒がいくら教祖を信仰しても、赤間自身は己しか信じていないだろう。赤福様を信じる者が本当の危機に直面しても、赤福様はそれっぽいことを言うだけで最終的には裏切るはずだった。自分だけは安全な高い所に立って保身に走り、他人のフリをするはずだった。
だってすでに赤間は、成彦君を見捨てている。
――ぼくがステージの上に立たされ、大衆を見渡して思ったのはそんなことだった。
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