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◆白い恋人
世界が喪に服して五日が経った。
ただこの五日間、黒服に染まった他人よりよっぽどぼくの方が葬式気分であったのは言うまでもない。
この五日間で新たに分かったことがある。この現象は世界中で起こっているということ。海外のニュースを見ても、ニュースキャスターもVTRに映る人も皆黒い服を着ているのだ。
それからドラマやSNSなんかを眺めていても、録画だろうがライブだろうが、番組や動画に映る人間は皆黒服に見えていた。つまり、この現象には時間の概念はないようだ。
さらに恐ろしいのは、写真のみならず人が描いたものの服すら黒く見えるということだ。モナ・リザ……は元から黒っぽい服だけど、とにかく、誰もが知る有名な絵画も、果ては少年漫画の主人公の衣服さえベタ塗りされているのである。
そんなことから、ぼくは怖くなって好きだったドラマも漫画も避けるようになった。
また仲間探しの方でもこれといった成果はなく、ぼくは一週間と経たずして精神的に参り始めていた。いくら自分と同じような人がいないかネットで探していても、何も引っかからないのである。
そういうわけで、ぼくは仲間を探すとは言ったものの、早くも手詰まりを感じていた。
この現象に陥ってから初めての土日を迎えるというのに何もやる気が起きない。というより、きっとどこへ行っても賑わっているだろう休日に外へ出て、たくさんの黒服の人たちを目の当たりにするのがひどい苦痛に思われた。
それにこんな不可解な現象、休みの日にわざわざ足を使って何を検証し、どう仲間を探したらいいというのだろう。図書館で文献でも漁るのか? でも探し方が分からない。
光と色についての化学の本、繊維の歴史、超常現象やスピリチュアル系、精神疾患の医学書……? いやいや。やっぱりインターネットしか思いつかない。
この平日は毎日、寝不足も構わずぼくは懸命に「黒い服 世界」とか、「黒い服 皆」とかで検索し、ブログでも都市伝説サイトでも何でもいいから、とにかくヒントくらいはないかと探してきた。だけど先述の通り、何もヒットしなかった。
それからSNSでアカウントを新しく作り、発信側にも回ってみたりした。白いTシャツを着た自分の首から下の写真を貼り付けて「黒に見える人はご一報を!」だったり、他者の黒に染まった服の写真を付けて「何色に見えますか?」だったり、会社にも入っていた例のコンビニチェーンの制服画像をお借りして「黒にしか見えん」というような投稿を繰り返したのだ。
しかし当然といえばそうかもしれないが、ぼくの努力虚しく、心理テストか何かの類と間違えられた挙句、変なアカウント認定されて干されるという結末を迎えた。声をかけてくるのは怪しいアカウントか、明らかに嘘と判るぼくの仲間を装った頭のオカシイ人だけになった。
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