◆白い恋人

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 ぼくは途方に暮れた。黒い人たちで埋め尽くされた異様な光景に見慣れることはなく、ぼくはさらなる孤独を感じるようになった。  ぼく以外の人間が宇宙人にでも洗脳されてしまったのだろうか。それとも、ぼくこそが宇宙人に洗脳された人間なのだろうか――?  いつの間にやら、レンジで温めたはずのコンビニ弁当が冷めきっていた。こんなふうに知らず知らずのうちに考え事に耽っていたり、目の前のことに集中できなかったりすることが増えていた。  ぼくは硬くなったご飯を箸で割く。結局すぐに、食べるともなくぼーっとテレビを眺め出していた。  ――そんなときだった。  観るともなしに観ていたニュース番組がお天気コーナーに移った。画面が切り替わって、金曜の夜のスクランブル交差点が映し出される。中継のようで、現在の渋谷の様子を映していたのだが、そこに目を引く点が一つ。あれ……? ぼくの瞳孔が小さく開いた。  箸が転げるのも構わずローテーブルから腰を浮かせる。何かに取り憑かれたように、テレビににじり寄っていく。そのまま食い入るように、ディスプレイに目を凝らす。  間違いない――白い服を着た人がいる!  ぼくはその白い一点に目が釘付けになった。女性だろうか。白いスカートをふわりと靡かせながら、颯爽とスクランブル交差点を西から東へと抜けてゆく。  テレビが次の画面に切り替わってしまっても、ぼくはしばらく放心していた。あの人は誰なんだろう、なんで白い服が着れたのだろう――。  ぼくはスマホを掴んだ。SNSを使って、今しがた渋谷のスクランブル交差点にいた白いスカートを履いた女性を探せはしないかと試みたのだ。  渋谷、スクランブル交差点、白いスカート……何かキーワードになりそうなものを片っ端からハッシュタグにして発信する。  通知音にぼくが肩を揺らしたのは、僅か数分後のことだった。SNSのDMマークに付いた赤い丸を見て、思わず息を呑む。震える指でタップした。 ――初めまして。わたしを見つけてくれてありがとうございます。きっとあなたも、世界の人々が黒い服を着て見えるんですよね? わたしもです。ぜひ、仲間になってください。
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