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夢衣子さんの即断の提案通り、目と鼻の先にあるハンバーガーショップに入る。よかったと思った。互いに話したいことをはち切れそうなほど抱えていたので、十秒そこらで提供される百円のコーヒーはありがたかった。
「何から話したらいいんだろう」
大きなガラス窓に沿って並んだカウンター席に腰を落ち着ける間も無く、ぼくはそう言った。小柄な夢衣子さんはすこし苦慮してハイスツールに座ると、ぼくを見て笑った。
「よくわたしのこと見つけましたね」
「スクランブル交差点にいたのは、やっぱり意図的だったんだ?」
「はい。ヒロさんが見つけてくれた日は歩き始めて十一日目でした。仲間の人にどう見えてるか分からないのに、いるかもわからないのに、とにかく誰かが見つけてくれるまでやり続けようって思っていました。長かったようで、すごく早かったです」
そう言って、夢衣子さんは目の前の窓から渋谷の街に視線を移した。二階席のここからは、北西の方向にスクランブル交差点が小さく見える。
聞いてみると、彼女が異変に気づいたのはぼくよりも十日ほど早い時期だった。それからぼくと似たり寄ったりの検証を続けながら、ぼくと同じように仲間を探していたようだ。ちなみに彼女はまだ二十歳になったばかりの、渋谷に程近い大学へ通う学生だった。
「黒服の人がわたしを見てもいつも通りに認識しているのは、花柄の服を着たときにきちんと花柄だと答えてくれることで判りました。それから、友だちの服について褒めたとき、友だちは自分の服を『この緑が気に入ってー』って話してて。つまり、自分たちが黒服であることを当たり前という認識をしているんじゃなくて、自分の服を本来の色のものとして認識してるんです」
「そうだよね。ぼくもそれはまず調べた。……でもそうなると、黒服に見えているぼくらがおかしいことになるんだよね」
「ヒロさんはそう思いますか?」
「え?」
彼女の意志の強そうな瞳と目が合った。それはすぐに伏せられたが、代わりのように、くっきりとした二重瞼に載った淡い色のラメが、キラリとぼくに向けられる。
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