大人になること

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 結婚願望がなく、子供を持つことはどちらかというと恐怖の対象で、 仕事はともかく、個人的な人付き合いが苦手で、これといった趣味もない。 そんなわたしにとって、旅行と食べることが趣味で、物腰が柔らかい長谷川さんと一緒にいるのは、心地よかった。 私がミクシィをやめてフェイスブックを始めた時も、ガラケーからスマホに買い替えた時も、 「若い人は、吸収が早くていいね。僕にも、教えてよ。」 と言って、一緒に使い方を覚えてくれた。 「どうしておじさんて、エレベーターを待つとき、ドアの真ん前で  仁王立ちで待ってるの?  どう考えても降りる人が優先だし、上から降りてきたエレベーターに人が乗ってることぐらい、想像がつかないのかな。  しかも、向こうからぶつかってきたくせに、わたしに謝りなさい。って言ったのよ。  謝るのはそちらです、って言ったら、舌打ちして立ち去るし。  信じられない。ばっかじゃない!!」 私の八つ当たりみたいなつまらない愚痴も、 「それは災難だったね、けがはない?大丈夫?  若い女性に冷静に言い返されて、おじさんもびっくりしたんじゃない?  でも世の中変な人もいるから、そういう人には関わらない方がいいよ。」 なんて言って、受け流してくれた。  そのあたたかさが好きだったけれど、40代も半ばに近づいて、若者扱いをされるのは、うれしさよりも、変なプレッシャーの方が大きかったのもまた事実だ。 長谷川さんは気軽に「若い」とか、「かわいい」いう言葉を使ったけれど、正直言って、「若くてかわいい女子」を演じる限界は、超えていた。  不倫という関係が永遠に続く訳がないことはわかっていた。わかったうえで、彼と付き合って来たはずなのに、今、すべてを彼のせいにしたくなるわたしがいる。 せめて5年前なら、次の恋愛に行く気力も体力も残っていたかもしれないのに。もう、わたしは若くもかわいくもないうえに、「新しい出会い」を求める力は残っていない。  結婚しないかも。子育てなんて、わたしには無理。それは自分で決めたことだったはずなのに、これからはずっと一人で生きていくのか、と思ったら、軽く絶望した。
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