大人になること

　とにかく凝り固まった身体を、力いっぱいほぐして欲しい、とは思っていたけれど、初めて整骨院に行った日、受付で渡されたスウェットの上下に着替えて待っていた私の前に、熊を思わせる巨体の彼が現れたときには、
「この人が本気を出したら、わたしの首は、ぽっきりいってしまうんじゃないか」
なんて思って、一瞬ひるんでしまった。

　でも、大きくて分厚い掌は見かけによらず繊細で、わたしの身体のつらいところを的確に探り当て、痛気持ちいい絶妙な力加減でもみほぐしていって、１時間のコースのうち、後半の２０分位はドラム式洗濯機で洗われている、洗濯物になった夢を見た。

　お会計の時、名札を見て、熊っぽい彼の名が「熊谷」さんであることを知った。やっと、わたしの身体を楽にしてくれる人を見つけた、という喜びと、もみほぐされて心地よい重だるさを感じる身体に、少し、興奮していたのだと思う。
熊っぽい風体の熊谷さんという名前もなんだかすごく気に入って、
「すごく良かったので、次回もぜひ、熊谷さんにお願いしたいです」
と勢いで言った。
「自分はまだ経験が浅いので、指名は出来ないんです」
と、申し訳なさそうに言われてしまった。

　わたしは、割とあからさまにがっかりした顔をしたのだと思う。彼は迷いに迷ってから、
「あまりいいことではないですが、禁止されてはいないので。」
といって個人の携帯電話の番号を教えてくれて、
「メールで連絡を頂ければ、自分が担当できる日時をお知らせします」
と言ってくれた。

それ以来、２，３週間に一度は通っている。