大人になること

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 熊くんは、施術中は、必要最低限のことを伝える以外は無言でじっくりほぐしてくれるので、マッサージ中にあれこれ話しかけらるのが苦手なわたしには、ありがたかった。  そして、施術後には、「首回りが楽になる」とか、「夜寝る前におすすめ」とか、毎回新しいストレッチをひとつずつ、教えてくれた。  わたしの日常生活に、身体を伸ばしたりほぐしたり、という習慣が少しずつ増えていって、鎮痛剤の使用頻度は、目に見えて減った。 ついでに、体重も、減った。  熊くんとは、だんだん、予約以外の事もメールでやりとりするようになって、二人でご飯を食べに行くようになり、そのうち、飲み友になった。  熊くんの今の年齢が、わたしが長谷川さんと付き合い始めたのと同じ、28歳だと聞いた時だけは、何か、呪いめいたものを感じたけれど、でも、当時のわたしが、ちゃんと将来を見据えて同年代の人と付き合っていたら、どんな感じだったのか知りたい。 それが自分への言い訳だという自覚はあったけれど、そう思うことにした。  熊くんは、仕事中はどちらかというと無口な印象だったけど、お酒が入ると、饒舌になるタイプだった。  野球少年だったという熊くんの話は、今まで、体育会系のタイプとは付き合ったことのなかった私にはどれも新鮮だったし、なんでも美味しそうにもりもり食べる健康的な若者を目の前で見るというのは、40半ばの中年女にとって、たまらない癒し効果があることを知った。
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