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学生時代は、けがが多くて、野球より、リハビリをしていた期間の方が長かったこと、ゆくゆくは自分のお店をもって、スポーツ少年たちのけが予防に貢献したい、と、将来の夢を何の衒いもなく話す熊くんの若さが、まぶしかった。
「施術後のアンケートに、『腕は悪くないけど、暗い』って書かれちゃって。
自分、世間話が苦手なんですよね。」
とか、
「おばさん達って、どうして自分から予約して通ってきてるのに、『こんなおばちゃんの相手させちゃってごめんね』とかいうんですかね?そんなことないです、って言っても、『またまた嘘ばっかりー。』とか、会話が成立しないんですけど。
あの会話に、正解の返しってあるんですかね?」
とか、微笑ましいばかりの仕事の悩みを聞くのは、楽しかった。
「接客業って、相性とかもあるから、難しいよね。私はむしろ、あれこれ話しかけられる方が苦手なんだけどな。とりあえず、目が合わせてにこっと笑ってみるとかはどう?」
「おばちゃん達のそれは、照れ隠しだと思うよ。何を話していいかわからないから、自虐に走っちゃう、みたいな」
なんて、訳知り顔で適当に答えながら、わたしはしばらく思い出すことのなかった、長谷川さんの顔を思い出していた。
初めは、なぜ今、長谷川さんの顔が出てくるのか、自分でもよくわからなかった。
決して、今更、未練があるからではない、ということは断言できるのだけど。
ぼんやり自分の世界で考え事をしていたしたわたしに気づいた熊くんの、
「なんか、自分ばっかり話をしちゃってすみません。」
という一言に
「いやいや、熊くんの話を聞くのは、楽しいよ。 若くて、健全で、なんかかわいいな、とか思っちゃう。」
と反射的に返した時、突然、いろんなことがクリアになった気がした。
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