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付き合い始めたあの頃、長谷川さんがどんな気持ちでわたしの話を聞いてくれていたのか。とても大人だと思っていた長谷川さんは、もしかして、「大人の男性」を演じていただけだったのかもしれない。
自分がいつの間にか熊くんの前では「大人の女性」を無意識に演じている事に気が付いて、背中がすっと冷たくなるのが分かった。
「ところで、熊くんは、彼女はいないの?」
「どんな女の子が、タイプ?」
熊くんと話をするときは、いちど考えてから言葉にするようにしていたのに、考える前に言葉が出てしまった。
わたしはその時初めて、熊くんの眉間に薄くしわが寄るのを見た。
「どうしていきなりそんなこと聞くんですか?」
熊くんの声は少し固かった。
・・・それは、今わたしが予防線を引いたからです。
これ以上は、危険、とわたしの中のアラームが鳴ったんです。
そんなことは言えるはずもなく。
「ちょっと興味がわいただけ。変なこと聞いて、ごめんね。
答えなくていいよ。ほんとにごめん。」
頭を下げたら、熊くんは、
「別に怒ってないですよ」
と、言ってそのあとはまた普通の話題にもどったけれど、その日、熊くんの機嫌があまりよくなかったのは、分かった。
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