第一部 今彼ったら最悪‥‥

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第一部 今彼ったら最悪‥‥

当時、ミックによって、肉体の充実と共に、 愛されて然るべき女の自信を得た私は、 元気百倍だった。 漲る愛のパワーが、指先から溢れ出ていくのが もったいなくて、見切り発車で始めたサロンは、 瞬く間に、確実に結果を出すと評判を取り、 予約の取れないゴッドハンドの ニセエステティシャン兼似非(エセ)セラピストとして、 公私ともに充実した毎日を送っていた。 そんな或る日、新規の客が現れた。 メンズの客は断固、お断りしていたのだが、 その男は、今まで見たことのない風変わりな 体躯と容貌で、私の興味を引いた。 その頃、物事の運びが至極順調で、 すっかり調子に乗っていた私は、ふとした遊び心で モニターになってくれるなら、との条件を 付けて、とりあえず彼を施術室に、ご案内した。 彼の目は、特徴的で、それを表す比喩を 一目見た時から考えていたのだが、 部屋に案内する途中、ハッと思いついた。 その目は、 きっと一度死んだことのある人の目に違いない。 彼の目は楕円形で大きくて、白眼の中に 鉛のような黒眼が泳いでいて、 浮腫んだような一重瞼なのに、目の下には イマドキ流行りの肉付きの良い涙袋が 付随していて、尚且つ、どす黒い(クマ)が 目立つ。 なんかこう、上下逆さまにくっつけられたような 目とでも言うのだろうか。 身体の状態は、更に悲惨だった。 杜撰(ずさん)で大きな赤い縫い傷が、 身体の至る所にメトロの路線図みたく 散らばっていて、見るからに痛々しい。 カチコチでデカい図体の割には、 栄養状態も芳しくなく、虚弱な体質のようである。 これは単に栄養過多で肥っているのでは無く、 「代謝機能が正常に働いていない為に、本来なら 排出すべき老廃物を溜め込んでいるのです」と、 お見立てした。 「だいぶお疲れが溜まっているようですね、 この(クマ)ひど〜い、たぶん腎臓が弱って いるんじゃないかしら? そうだわ毎日、林檎を皮ごと、お食べなさいな、 騙されたと思って。 えーっと、ところで貴方のお名前は、、」 待合室で書かせた問診票を確認する。 「フ、ラ、ンとお読みすれば?あーなるほど 腐乱健太様、これから頑張って私と一緒に、 体質変えていきましょう!」
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