恋する熊さんは「王子様」になりたい

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 幼なじみが、私に、何度目か知れない無茶を言ってきた。 「とりあえず王族に転生して」 「そ、そんなぁ」  そんな無茶を、こうして軽くあしらうのは子供の頃からのお約束だった。  それにしても今日のは『無茶』というより『不可能』。いったいどうしたんだろう。突飛なことを自分から言っておいて、落ち込んでいる。 「何いったい? 何かの罰ゲーム?」 「罰じゃないけど、ゲームなんだ」 「は?」  まだ怪訝な顔をする私に、熊太郎はスマホを取り出してアプリを起動した。ゲームのようだ。  何やらきらびやかな背景に、長身でほどよく逞しい体躯、さらさらで色とりどりの色の髪、切れ長の眉と瞳、形の整った鼻と唇……そんなキラキラビジュアルのイケメンたちが並んでいる。 「これは?」 「乙女ゲームという奴だ」 「乙女ゲームという奴ですか……それで?」 「この王子様にしてくれ」 「無理でしょ」  私は、じーっと熊太郎の顔を見ながら即答した。 「物理的に無理って事ぐらいわかってるよ! だから、お前の魔法の力を借りたいんだ!」    そう……こいつは私が魔法使いだと知っている。  昔、まだ上手く魔法が使いこなせなかった時に見られてしまったのだ。だけど人に言いふらすでも何でもなく、ただ恋の相談相手になってくれと言う以外、何もない。  正直、とてもありがたい。だけどその分、たまに来る『お願い』が結構とんでもなかったりする……。 「魔法でどうするの? 骨格も肉付きも声帯も変えるの? そこまで変える魔法は、さすがにかなり難しいんだけど」 「そんなこっそり色々と否定しないでくれよ」 「何でまた急にこんな『王子様』に?」 「コレ……恩田さんがハマってるんだ」 「……ああ」  その一言でよくわかった。  愛しのお姫様の推しになっちゃおうってことらしい。普通の人ならコスプレや舞台を見に行くのが限界だけど、確かに魔法なら『変わる』ことが出来なくもない。 「頼むよ! ほら、報酬ならここに……!」  熊太郎亜、そう言うとポケットだけじゃなく鞄からもキャンディをどさっと大量に出した。全部、キラキラ煌めいている。  恋心がたっぷり詰まって美味しい魔力に溢れている証拠だ。  これだけの『報酬』は、未だかつてない。 「……し、仕方ないな。何か方法を考えるから、待ってて」 「よっしゃ! 槇、頼りにしてるぞ!」
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