恋する熊さんは「王子様」になりたい

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 多額(?)の報酬につられて色々考えた結果…… 「幻覚を見せよう」 「何だそれ? ヤバそうだぞ」  「魔法に頼ってる時点でヤバいでしょうが。とりあえずやって見せるわ」  私は、机の上に積み上げられたキャンディの山から一つ手に取り、ぽんと口に放り込む。そして熊太郎に背を向けて、自分に向けて魔法をかけた。  別に何も変化はない。だけど、くるりと振り返ると、熊太郎から感嘆の声が漏れた。 「お、お、恩田さん……!?」 「熊太郎くん。どうかな、私……可愛い?」 「か、可愛いです……!」 「…………だぁぁっ! もうダメ。恥ずかしい!」 「え……槇?」  慣れない台詞を言って全身が痒くなって悶える私を、熊太郎がきょとんとして見つめていた。  もう、魔法は解けている頃だ。 「何したんだ?」 「私が、別の誰かに見える魔法。魔法をかけてから最初に会った人にとって、一番会いたい人の姿に見える……それだけなんだけどね」 「つまり……俺がこの魔法をかけてもらって、恩田さんに会いに行くと、恩田さんには俺が推しの姿に見えるってことか?」 「イエス。ただ……一つ問題がねぇ」 「問題って?」  私は、ぴしっと熊太郎を指さした。 「あんた自身が王子様らしくない」 「だから化けさせてくれって言ったんだろ!」 「あのね、さっきの魔法は『そう見える』ってだけ。喋ったらボロが出る。実際、私喋ったら恩田さんぽくなかったでしょ?」 「た、確かに……恩田さんはもっと自然に可愛い」 「悪かったね。素で可愛くなくて。でもそれはあんたにも言えるんだからね。試しに、そのゲームの王子様の台詞、言ってみ」 「え? えーと……『危なっかしーから、俺の側にいろよ』……?」 「照れてどうする」 「いや、だって……こんな台詞恥ずかしすぎて」 「そうじゃない。その『王子様』とやらは、その台詞を言うのが素なの。照れるはずがないんだよ、本当に『王子様』なら」  「はっ……そうか! それもそうだな」  ようやく気付いてくれた。今のままでは表面だけ着飾ったハリボテでしかないということに。今、姿だけ幻を見せて近づいても、とんでもないボロが出てしまう。 「た、確かに……お前の言う通りだ。このままではまだ、俺は本当の『王子様』とは言えない」  まだも何も、未来永劫違うと思うけれども、そこは置いておいて……。 「じゃあ、やるか」 「何を?」 「特訓に決まってるでしょ。見た目だけじゃなく、キャラも王子様になりきれるようにしないと」 「お、おう!」 「で、恩田さんの推しってどの王子様なの? いっぱいキャラがいるけど」  ゲームの攻略対象キャラ一覧には複数人の『王子様』が並んでいた。どれもこれもイケメンだ。  熊太郎は、その人たちを指した。 「みーんな、カッコいいんだってさ」 「……はぁ!?」
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