恋する熊さんは「王子様」になりたい

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 特訓は苛烈を極めた。正直、今までで一番難易度が高そう。    今までもずっと、熊太郎は一生懸命だった。恋多き男ではあるけど、軽薄ではなくて、毎回毎回命がけの真実の愛なのだ。好きになった相手のために誠心誠意尽くし、一日48時間相手のことを考えている。  だからこそ私も懲りずに手を貸すのだけど。それにしたって今回は無理難題だ。なにせ人格を矯正して、五人もの王子様に仕立て上げなきゃならないんだから。  約1週間続けているけれど、成果は…… 「はい、野獣王子のレグルス様」 「『お前の居場所は俺の隣だ。それ以外認めねぇ!』『ったく、危なっかしーな。俺の側から離れんじゃ』……ねーよ」 「うーん、やっぱり新しく覚えた台詞はまだたどたどしいなぁ」 「仕方ないだろ。現実では絶対言わない台詞なんだし」 「現実ではあり得ないからこそ夢があるのだよ。そして君は、恩田さんに夢を与えようと頑張ってるんでしょうに」  どこぞの権威者っぽく言ってみるけれど、熊太郎は苦笑するばかり。 「やっぱり俺がやるのは無理があるよな。どの台詞も似合わないっていうか」 「そのために幻覚見せるんでしょうが。弱気になる暇があったら、王子様像をもっとイメージする!」 「押忍、教官!」 「王子様は押忍とか言わない」  熊太郎はいつだって一生懸命。だからこそ、私もスパルタで対応してきた。たぶん、この時間が楽しいから、というのもあると思う。  この熊みたいな大男が、顔を真っ赤にして恋する相手の名を呼んでいる様が、なんだか可愛らしいのだ。
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