恋する熊さんは「王子様」になりたい

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 さらに1週間ほど、熊太郎は必死に頑張っていた。その成果を、ご覧あれ。 「野獣王子レグルス様」 「『ったく、危なっかしーな。俺の側から離れんじゃねーよ!』『様とかつけんなよ。むず痒いだろ。お前はもう……俺のものなんだからな』」 「冷徹王子シリウス様」 「『厳粛に、手に入れると決めたら必ず手に入れる。お前のことも……な』『時間の無駄は最も嫌うところだが……お前との時間なら、悪くはない』」 「年下王子リゲル様」 「『どこ行ってたの? 寂しかったよ!』『僕は頼りないかもだけど……いつだって君の力になりたいと思ってるよ!』」 「温厚王子プロキオン様」 「『あなたが行くと、花たちが喜びます』『あなたを傷つける者は……たとえ神であろうと許さない!』」 「ナンパ王子アクルクス様」 「『ねぇ、君……俺と遊ばない? 来てくれないなら、無理矢理にでも攫っちゃうよ』『女の子は星の数ほどいると思ってたけど……君を見ていると、一人一人違う輝きを持っていて、そして……君の輝きだけ、近くで見ていたいって……今はそう思うんだ』」 「……おおぉ~長い超キザ台詞も難なく言えてる! すごいじゃん、熊太郎!」 「ありがとう、槇! 合格かな?」 「花丸満点で卒業だよ」 「よっしゃぁ~! 俺、今から行ってくる!」  今にも飛び出しそうな熊太郎の制服の裾を、思いっきり引っ張った。 「落ち着いて。恩田さん、今日はもう帰っちゃったよ。それにあの魔法は、出会った最初の人にしか効果がないの。恩田さんと会う前に別の人と会ったりしたら効果が切れる」 「そ、そうか……確実に恩田さんとだけ顔を合わせるようにしないとってことか」 「イエス。まぁ安心したまえ。明日、私が取り計らってあげよう。アフターサービスってことで」 「マジか! なんて良い奴なんだ! 知ってたけど」 「でしょ? 親切だよね~私。知ってたけど」  手を握ってぶんぶん振り回して喜ぶ熊太郎を見ていたら、自然とお節介を焼く気になってしまった。上手くいけば良いな、と素直に思う。  だけど、その瞬間に気付いた。 『上手くいく』ということは、熊太郎は恩田さんと付き合うということ。だったら、放課後のこの時間は、もうなくなるということ。  それは、困る。もう魔力の源を貰えないなんて。  普段ならそう思うはずなのに……どうしてだろう。今は、『困る』よりも『虚しさ』の方が、強く心に浮かんだ。
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