恋する熊さんは「王子様」になりたい

7/8
前へ
/8ページ
次へ
 決行は翌日の放課後。  私が魔法で書いた手紙を恩田さんに送ったのだ。恩田さんにだけ読めるようにして。人気のない場所を指定して。  反則スレスレの手かもしれないけど、この1回きりということで許して貰おう。  熊太郎は、朝から心臓が破裂しそうな顔をしていた。周りの方が怯えるくらい。  その理由を私一人が知っているというのは、ほんの少しだけ愉快だった。まぁそれも、放課後に近づくにつれて変わっていったけど。  そろそろ約束の時間だ。  熊太郎は無事に対面できただろうか。いったいどの『王子様』の名で呼ばれただろうか。ちゃんと対応できただろうか。 「それに……恩田さんから、なんて言われたかな」  上手くいけばいいな、とは思う。思っているはずなのに、どこか胸の内が重い。 「そうか。熊太郎が上手くいっちゃったら、魔力供給の相手を探さなきゃいけないから、面倒なんだ。そりゃ気が重いよね」  熊太郎ほど純粋で烈しい『恋心』を常に持ち続けている人は、今まで他にいなかった。他の供給源を探すとなると、どうしても味が落ちてしまうことは覚悟しないと。  それに耐えられるか、自分で心配だ。なにより、見つかるのかもわからない。  熊太郎の前途が明るくなると、私の先行きが不安になる。  なんて、自分勝手なことを考えているのか。  いつもは熊太郎の影で覆われている机が、夕日を浴びてぽかぽかしている。そこに突っ伏すと、温かい。温かいはずなのに、どうしてか寒い。 「おかしいな……」  ぽつりと呟いた言葉が、空気に溶けていこうとした。その時―― 「槇……」  ガラッと教室のドアが開くと同時に、あの熊のような大柄な男がのそっと入ってきた。 「え……熊太郎!?」
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加