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決行は翌日の放課後。
私が魔法で書いた手紙を恩田さんに送ったのだ。恩田さんにだけ読めるようにして。人気のない場所を指定して。
反則スレスレの手かもしれないけど、この1回きりということで許して貰おう。
熊太郎は、朝から心臓が破裂しそうな顔をしていた。周りの方が怯えるくらい。
その理由を私一人が知っているというのは、ほんの少しだけ愉快だった。まぁそれも、放課後に近づくにつれて変わっていったけど。
そろそろ約束の時間だ。
熊太郎は無事に対面できただろうか。いったいどの『王子様』の名で呼ばれただろうか。ちゃんと対応できただろうか。
「それに……恩田さんから、なんて言われたかな」
上手くいけばいいな、とは思う。思っているはずなのに、どこか胸の内が重い。
「そうか。熊太郎が上手くいっちゃったら、魔力供給の相手を探さなきゃいけないから、面倒なんだ。そりゃ気が重いよね」
熊太郎ほど純粋で烈しい『恋心』を常に持ち続けている人は、今まで他にいなかった。他の供給源を探すとなると、どうしても味が落ちてしまうことは覚悟しないと。
それに耐えられるか、自分で心配だ。なにより、見つかるのかもわからない。
熊太郎の前途が明るくなると、私の先行きが不安になる。
なんて、自分勝手なことを考えているのか。
いつもは熊太郎の影で覆われている机が、夕日を浴びてぽかぽかしている。そこに突っ伏すと、温かい。温かいはずなのに、どうしてか寒い。
「おかしいな……」
ぽつりと呟いた言葉が、空気に溶けていこうとした。その時――
「槇……」
ガラッと教室のドアが開くと同時に、あの熊のような大柄な男がのそっと入ってきた。
「え……熊太郎!?」
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