クラリッサが捕まったのは危険で厄介な相手

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「どうした? 罰を受けさせるのは不満なのか?」 「いいえ。ラドさ、陛下の邪魔をしたのですから罰を受けるのは当然の報いです。ただ、どうして私と陛下が繋がったのかなと、思っただけです」 「クラリッサが持っている、俺と繋がっていたアレが原因だ。アレは本来ならば俺にしか扱えないもので、帝位争いをしている時に油断して兄上に奪われ探していた。アレはこの国に流れ着き、偶然クラリッサの手に渡り俺と繋がった。フォレス王国へ来たのはアレを取り戻すためと、クラリッサを連れて帰るためだ」 「連れて、帰る?」  不穏な言葉が聞こえた気がして、クラリッサは目を数回瞬かせる。 「魔石によって繋がった理由が分かりました。でも、それがどうして、えーっと、私が帝国へ行く話になるのですか?」  探していた魔石を取りに来たのなら、ラドルハルトに魔石を返して関係は終わりなのに、クラリッサがトルメニア帝国へ連れて行かれる理由が分からない。  平均的な魔力量と可もなく不可もない魔法特性、少しだけ回復魔法が得意なだけで、皇帝陛下の役に立つとも思えなかった。 「俺がクラリッサのことを気に入ったからだ。婚約を解消するのなら、俺が貰い受ければいいだろうと思い、此処まで来た」 「気に、入った? え?」  偶然繋がって二か月間、他愛のない話と愚痴しかしていなかった。  その何処に皇帝陛下が気に入る要素があるのか。  急展開について行けず、目の前が真っ白になったクラリッサの頭はまたもや混乱していく。 「すでにホークケン伯爵と国王には話はつけてある。個人間の話ではなくトルメニア帝国とフォレス王国間の話となった。俺とクラリッサの婚姻は決定事項だ。諦めろ」  命ずることに慣れた高圧的な口調だった。つい頷きかけて、クラリッサは顔を横に振った。 「諦めるも何も、急展開過ぎて頭がついていきません」 「帝国に着くまでに受け入れていればいい」  立ち上がったラドルハルトは、クラリッサの隣へ腰掛けると彼女の肩へ腕を回した。 「ちょっと、陛下!?」  移動のために横抱きにされていたのとは違う、互いの顔と顔の近さと肩へ回されたラドルハルトの腕の力強さと、圧倒的な存在感に目眩がしてきた。 「俺の声が好きだと言っていただろう? 一番傍で、好きなだけ聞かせてやる」  肩を抱かれて耳元に近付けた唇から、吐息とともに流し込まれる低音の声。  それだけで、クラリッサの心臓の鼓動は壊れるのではないかと心配になるくらい速くなり、体温も上がっていく。 「嫌か?」 「……嫌じゃない」  魔石越しのラドルハルトとの会話は楽しくて、いつか彼と会って話をしてみたかった。  会いに行くと言われて、少しだけ、彼に会えるのではと期待していたくらいなのだから。  真っ赤に染まる顔を見られたくなくて、さらに俯いたクラリッサは首を横に振る。 「では、俺との婚姻を受け入れるな?」 「ひゃっ! 受け入れるっ受け入れるから。息、耳の中に吹きかけないでぇ~」  色っぽさを増した低音の声をと息と共に耳へ流し込まれてしまい、涙目になって目蓋を閉じたクラリッサは、全身を真っ赤に染めて何度も頷いた。  残酷な皇帝ラドルハルトに“偶然”繋がり、不幸にも気に入られてしまったクラリッサ・ホークケン。  この時、拒否せず頷いてしまったために残虐な皇帝から逃げられなくなったこと。  今までは元婚約者に翻弄されていたのに、これから先は、想像以上に暗く重い感情を抱いているラドルハルトに翻弄されることになるということを、思考停止状態になっているクラリッサはまだ知らなかった。
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