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【 プロローグ 】
昭和の時代に建てられたという古い自宅の二階。
薄汚れた四畳半の小さな部屋に、けたたましくピリリという憂鬱で耳障りな電子音が今日も鳴り響く。
完全にくっついた重たい瞼を無理やり少しだけ開けて、ベッドに寝転んだまま枕元に置いてあるスマホに手を伸ばす。
時間を見ると、8の数字が見えた。
「うそっ! やべっ!」
その数字は、学生の僕にとって致命的な数字だ。
慌てて学生服に着替えると、二階からリビングへ降りて行き、台所で洗い物をしている母への恒例の一言。
「母さん、どうして起こしてくれなかったの!?」
「何言ってるのよ。何度も起こしたでしょ?」
「もっと大きな声で起こしてくれなきゃ分かんないよ」
「あんた死んだような声で『う~ん』って言ったじゃないの」
「起きるまで大きな声で起こしてよ」
「勇樹、あんたもう高校生なんだから、いい加減自分で起きたらどうなの」
リビングの壁に吊るしてある焦げ茶色の古い小さな振り子時計を見ると、時間は8時5分を過ぎている。
母とこんな無意味な会話をしている場合ではない。
とりあえず、朝のトイレと顔だけ洗い、教科書の入った重い紺色のリュックを勢いよく背負うと、ご飯も食べずに急いで玄関を飛び出す。
「いってきまーす!」
「いってらっしゃーい! 車に気を付けてよー!」
いつもと変わらない僕の日常が始まった。
僕は今日も僕を演じる。
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