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1.遠く離れて。
家が近所というだけでも、
2人の間には深い縁があると思っていた。
川瀬由貴とは、幼稚園年長から高校3年まで
同じクラスという超奇跡的な繋がりで、
仲良く過ごしてきた。
イベントごとに撮る写真には
必ず輪の中に一緒に並び、笑顔を向けた。
残っている写真のほとんどは、
川瀬と隣り合わせ。
誕生日は3ヶ月違うが、
出席番号は毎年かなり近かったので、
進級当初の教室の席や掃除の班に給食当番は
たいてい前後だったり同じだったりした。
いつも一緒が、当たり前。
明るく爽やか、活発で友達の多い川瀬と、
いつも静かで無口、
川瀬以外の他人とほとんど関わらない僕の
正反対コンビが仲良くなるなんてと、
周りにはよく驚かれたが、
これだけはやってはダメだねということ、
例えば人をいじめたり陥れたり、
意図的に困らせたり、ポイ捨てしたり
そんなことをはっきりダメだと言える
ところが共通していて、
特に川瀬の義理人情に厚く、
誰にでも優しい性格が大好きだった。
ずっと一緒にいたい。
大学もぜひ同じところをと望んでいたが、
高3の秋。
川瀬家にアメリカ行きの話が舞い込んだ。
僕の予想を遥か斜め上を行く話を
聞きつけてきたのは、僕の母だった。
「残念よねえ。由貴くん、お父さんの仕事の
都合でアメリカに行くんですって。
いきなり英語圏の生活で大丈夫かしらね」
「まあ、あいつは子供の頃から英語の塾に
通ってたし、大丈夫じゃない?」
そう言いながらも、寂しさは増大していく。
川瀬に会いたい。
母との話もそこそこに、川瀬家に向かった。
「話が早い。ちょうど岸野の家に行こうと」
玄関のドアに手をかけたのと同時に、
ドアを開け放ち出てきた川瀬が微笑んだ。
「本当に行っちゃうの?」
「行くよ」
川瀬に即答され、僕は呆然とした。
「岸野と離れるのは、寂しいけど。向こうで
スキルアップしたい。大学を卒業したら、
必ず日本に帰ってくるよ。だから待ってて」
これから更なる英語スキルの向上と、
進学サポートの講座に通うという川瀬を
僕は応援するしかなかった。
春にはアメリカに発ち、
地元の語学学校に通いながら、
夏の大学入学に備えると聞いて、
自分とは全く違う環境に置かれるのだと
途方に暮れた。
安穏とした川瀬との日々は、
こうして終わりを告げることになった。
翌年の春。
アメリカのある大学に合格した川瀬は、
家族とともに日本を発った。
僕は日本で川瀬のいない日常を送り、
大学で新しく友達を3人作った。
佐橋雄大、秋津昌美、神代綾という
個性バラバラの奴らとわちゃわちゃしながら
川瀬のいなくなった場所を埋めた。
バイトは、
過酷で甘えの効かないコールセンターを
選び、自分を高める努力をした。
就職先はと言えば、
大学で法律を学び資格を取ったのを活かし、
大手の法律事務所を志望、
積極的に地域ボランティアにも参加した。
再び川瀬と繋がるためにスキルアップを
怠らず、川瀬が帰ってくることを待った。
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