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「君を心底見損なったなったよ、ルチア・オルノール」  私の婚約者であるこの国の王太子であられるライザ様はそう告げた。  とは言っても、見覚えのない私にはなんのことだかさっぱり分かりませんわ。  あの方に見損なわれるようなコトをした覚えなどありません。  私は常に、次期王妃となるために厳しい教育を施されてきました。  それこそ、泣きたくなるほどに。    常に王宮での生活。  鞭を振るうほどの、厳しい家庭教師たち。  でもそれもこれも、次期国王になるライザ様に見合うため。  そう思えば、どれだけでも頑張ることが出来たのに。 「(わたくし)には、何のことをおっしゃられているのか、検討もつきませんわ」 「シラを切るというのか!」  シラを切るも何も、やっていないことを覚えている方がおかしいではないかしら。  いつも突拍子もないことを言い出す癖があるとは分かっていましたが、こんな王宮での夜会で言っていいことと悪いことの区別もつかないなんて。 「ですから、私には覚えのないことでございます」 「ならば教えてやろう。お前は、俺の恋人であるユナを陰で虐げ、挙句の果てに暗殺しようとしたのだ」 「……」  私という婚約者がいるというのに、恋人ですか。  まぁ、知ってはいましたけどね。  ライザ様は初めからこの婚約に納得などしていないことも。  何かにつけて、私を小賢しい女だと罵り、傍には起きたがらなかったですから。  しかしそれにしても、国王様もいらっしゃるこんな夜会で自ら恋人がいることを宣言なさるなんて。  それに何でしたっけ?  頭が痛くなるようなコトを言っていましたね。  私が暗殺未遂?  どうしてそんなことをすると思い込んでしまったのでしょう。 「私はそのユナ様にお会いしたのも初めてならば、暗殺など考えるわけもございません」 「まだ言うか! 次期王妃になりたいがために、数々の悪行をしてきたことなど皆が知っているのだぞ」  皆が、ねぇ。  高らかにそう宣言しても、夜会に参加した貴族たちは皆ただ困惑の表情を浮べているだけ。  元々、私はこの国の宰相の娘であり公爵家令嬢だ。  いくら王妃座が欲しかったとしても、そんなことまでしてしがみつく程困ってなどいない。  それはココにいる誰もが簡単に分かること。  要は婚約破棄の原因を全て私に擦り付けて、自分は悪くないと言いたいのでしょうね。 「はぁ」 「なんだその態度は。自分の今置かれている立場が分かってるのか!」 「一応は理解しているつもりですわ」 「お前は本当にかわいげのないヤツだな」  ああ、ライザ様のシナリオでは、ここで私が泣きつくとでも思っていたのでしょうね。  可愛げがない。その点だけは認めましょう。  でも、私をそんな風にしたのはこの国であり、しいてはあなたなんだということを理解してもらいたいものだわ。 「貴族への、ましてや俺の恋人への暗殺未遂を起こしたのだ。その罪は重い。せいぜい牢獄の中で悔い改めることだな」 「つまりは、私とは婚約破棄をなさるということでよろしいのですね」 「当たり前だ!」  そうですか。  でもこれで私もやっと自由になれるということ。  それにもう婚約者ではないというのなら、許されるわよね。 「最後によろしいですか?」 「なんだ。やっと泣きつく気になったのか」 「あはははは、まさか。どうして私がそんなことを? 第一に、この断罪に証拠はおありなのですか? いくら王族といえど、証拠もなしに人を断罪することなどできません」 「そ、それは」 「それにです。もしこれが虚偽であった場合、この罪は私にではなく殿下とそこの令嬢が被ることになるんですよ」 「ひいっ」  ユナと呼ばれた令嬢は、顔を引きつらせながらライザ様にしがみつく。  その様子から、知らなかったんだろうなとは予測がつくが、かといって私は断罪された側。  彼女をかばう義理などない。 「相変わらず浅慮なのですね」 「そんなことはない!」  ムキになって、顔を真っ赤にするあたり、バレバレだとどうして分からないのだろう。  上に立つ者は、感情を表に出してなどいけないというのに。  ああ、いいこと思いついた。 「乳母に付き添っていただかなくても、用を足せるようにはなりました?」 「!」 「ああ、そうそう。この前の来賓がお見えになった際、相手方のお名前読み間違えていらっしゃったの知ってます? 私とお父様で、あの後平謝りだったんですよ」 「!!」 「そうそう。次の国王になられるのならば、いつまでも馬こわーーーーいとか叫ばずに馬にも乗れるようにならないといけませんわね」 「!!!」 「あとはそう、この前国王様が大事になさっている壺を壊したのをキチンと謝っておいた方がいいですよ。すでに犯人の目星、ついているようですから」 「!!!!」 「ルカ令嬢にも言っておきますけど、殿下は気に食わないことがあるとすぐに他人のせいにしたり、キレて暴力を振るわれる方ですからお気をつけて下さいね」 「え、そ、そんな」  ルカ令嬢は、ライザ様の顔色を伺いながら組んでいた腕をそっと離した。  そして真っ青な顔をしならが、後ずさりする。  確かに次期王妃という肩書は、誰もが欲しいモノなのだろう。  だが実際は、こんなものだ。  中身がないどころか、欠点だらけの次期王様。  王妃はそんな人の尻拭いをする役割でしかない。  私だって、願い下げだわ。  今までは国王様とお父様の顔を立てていただけ。  でも向こうから婚約破棄してくれたのだから、もう遠慮することもない。  さぁ、ココからが私の反撃になりますわよ。  今まで溜め込んできた分、しっかりやらせていただきますから。    引きつるライザ様に、私は今までで一番の笑みを浮かべた。    
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