自分の顔と自分の声

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 今回、またこうして仮面の男が夢に現れたのには確かな心当たりがあった。  つい先日、一年ほど付き合った恋人と別れ話をしたからだ。別れを切り出したのはこちらのほう。理由は、「単純に合わないから」だと伝えた。  上手くやれていると感じていたらしい彼女は、いきなりそう言われたことにひどく動揺したようで、何とか考え直してくれないか、と迫られ、今は少し時間が欲しい、考えさせてくれ、と言った。彼女は飲み込みかねていたが、やがてそれを承諾してくれた。  はじめは彼女に合わせた理想の彼氏というものをおれはやっていた。もちろんしっかり彼女のことは好きだったし、大切に想っていたことは間違いない。  ただ、時間が経って恋愛としての「好き」という感情が落ち着きを見せたとき、のしかかってくるのが、自分じゃない自分しか見せていないという負担だ。  自分自身、最低な人間だと思う。決して悪気があるわけではない。彼女を騙したいという気などさらさらない。ただ、彼女にそのままの自分を見せることができなかった。  いつかは素の自分として関わっていける相手が見つかるのだろうか、という気持ちがとんでもなく自分勝手で、わがままだというのも分かっている。おれはそんな自分が心底嫌いだった。今回の彼女との一件で、おれはもっと自分自身が嫌いになったのだ。 「今回はただ話を聞くだけじゃなくて、ひとつ核心に触れる必要がありそうだね」  仮面の男は黒に包まれた足を組み直し、帽子を被り直した。彼が姿勢を正す行為を示すものだ。 「ひとつ厳しいことを言うなら、きみはとんでもなく臆病者だ。そうやって、自分が傷つくことを何よりも一番に恐れている。結局は自分自身が一番かわいいんだ。脆い自分を覆い隠すことに必死なんだ。そうだろう?」  仮面の男にそう言われて、おれは改めて理解した。  自分は臆病者で、嘘つきだということ。  昔から、いつだっておれは自分自身が傷つかないように、自分自身を守るために、自分じゃない自分を演じてきた。 「きみは周りからの視線や評価に人一倍敏感で、『こいつはダメなやつだな』と、他人に失望されるのが何よりも怖いんだよ。それが一種の強迫観念のようにきみに圧をかけていて、きみにそういう演出をさせるんだ」  何度も言うが、決して悪気はない。  騙すつもりもない。  ただ、自分を守りながら生きていくことに必死だった。
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