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そのとき、ふとおれは彼の表情が気になった。それは仮面上の顔ではなく、その奥の顔のことだ。こういった話を、彼はいったいどんな表情でしているのか。
今まで何度かこういう思いを抱くことはあったが、今回はこれまで以来最も彼が多くを語ったこともあってか、さらにその思いを強く持った。
そして、そこでひとつ感じた違和感。それは、ここまで仮面をとることや、少しでも変わるということの大切さをうたった彼が、おれに対してはずっと何かしらの仮面をつけているということだ。
おれの一番の理解者であると言いながら、自分はずっと素顔を見せていない。よくよく考えれば、これではまるで説得力がないじゃないか。
おれは、いつになったらきみは仮面をとってくれるんだ、と彼に伝えた。すると、彼は仮面越しにでも分かるほど、きょとんとした表情でおれを見つめた。
「きみは今まで一度もおれに仮面をとれなんて言わなかったよ」
そう言って、彼は笑いの仮面の下に指をかける。
「ごめんね、悪気はないんだ。言われるまで気がつかなかったよ。おれは人に言われないとできないたちだからね」
要は、きみと同じさ。とつぶやきを置きながら、彼はおれの前ではじめて仮面をとった。
おれにはその一連の動作のすべてがスローモーションのように見えていた。
ゆっくりと仮面をとる男。その仮面をテーブルに置く音が、大して大きいものでもないはずなのに、この部屋を取り囲む灰色の壁に響きわたった気がした。
彼の素顔を見たおれは、言葉を失った。
「等身大のきみだよ」
そこには、薄い笑みを浮かべるおれが座っていた。
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