深夜二時の演者たち

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 物音を立てないように慎重に部屋を出た。  そのまま一階へと降り、玄関のドアをゆっくり開ける。  大丈夫、家族は寝静まっているようだ。  Tシャツにハーフパンツ、足元はスニーカーというラフな格好のまま外へ出る。  八月の夜空は生ぬるい。薄い風が顔に当たり、気だるい空気が全身を覆う。熱帯夜。エアコンが効いた部屋とは違うこの重々しい気温が汗と共に不快感を演出していく。  ガレージから買ったばかりの中古の原付バイクを押して家から離れた。家の前でエンジンをかけるのは憚られたから、仕方なく少し離れた場所でキーを回す。  黒い機体がブルっと震えて音を立てる。  メットを被ると、アクセルを回して道を進んだ。  深夜二時。夏休みは無駄に夜更かしをしてしまう。明日の予定なんて無いに等しいから、どうだっていいんだけど。  誰もいない夜道を走るのは気持ちがよかった。たまに家を抜け出してドライブをすることがある。こんな夜に。  いつだって夜は俺を受け入れてくれる。  行きたいところなんて特にないんだけど、それでもバイクで夜の闇を切り裂くのは気持ちがよかった。 『ちょっとさ、今から会えない?』  夏美から連絡があったのは、ついさっきのこと。俺がまだ起きていることを知っていたのか、そんなラインが突然来て、俺は無駄にテンションが上がった。  彼女も夜更かしをしているようだ。  俺と同じ時間を過ごしている。  悠介とはうまくいっていないと言っていた。ワンチャンあるかも、とかそんな邪な考えが頭の中にあって、いやいや、親友じゃんあいつは、裏切りはダメだろ、とか色々思ったりして。  夏美の家は原付で十分ぐらい走ったところにある。小学生の頃からの付き合いだから、家までの道順は頭の中にしっかりと入っている。見覚えのある住宅街が見えてきて、あいつの家を見つけた。  ブレーキをかけてバイクを停めると、二階から手を振る彼女の姿が確認出来た。  俺と同じように物音を立てないように一階へ降りていることだろう。そのまま廊下を進み、静かに玄関のドアを開けるんだ。  俺が想像していた通りにドアを開けた彼女は、泥棒みたいに忍び足で玄関から出てくる。 「ごめんね、こんな遅くに」 「いや、全然。まだ起きてたし」 「いいなぁ、バイク。後ろ乗っけてよ」  夏美もTシャツにハーフパンツ姿。足元はサンダルで、いつも一つに纏めている髪の毛が真っ直ぐ伸びていた。 「なに?」 「いや、その」  毎日のように見ている制服とは違う姿に思わず心が弾んでいた。 「後ろ乗せてよ。ドライブ行きたい」 「あー、まあいいけどさ、いや、やっぱりダメだ。ニケツして捕まったらヤベーし。結構この時間って、警察が巡回とかしてんだよ」  一応、俺らまだ高校生だしさ、と言い訳のような言葉を掛けると、夏美は口を尖らせて、「ふーん、じゃあ近くの公園まで乗せて」と言って納得した。
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