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座席を少し開けてやって、彼女が俺の後ろに乗る。両手を俺の腰に回して落ちないように捕まってるとき、やっぱり自然と意識が背中に集まる。当たってんじゃねーのこれ、当たってる? いや、当たってない? わかんねー、もうドキドキしてわかんねー。
「わー、気持ちいい」
耳元でそんな声が聞こえてきて、なんかヤバかった。
近くの公園まではたった一分で着いた。
この一分が長いようで短い。
もしかしたらヤンキーとかいるかな、と思ったけど流石にいなかった。
結構広めの公園で、遊具はあんまりなくて、普通にサッカーとかできるぐらいの面積があった。当たり前だけど、誰もいない公園。街灯がポツンとあって、真っ暗闇って感じでもない。入り口近くのベンチに腰掛ける。原付はそこら辺に停めた。
「誰もいないね。当たり前か、もう二時だもんね」
薄暗い中でも、夏美の顔はちゃんと見えた。
「うん、っていうか、どうした? なんか話したかったんじゃねーの?」
「ああ、うん。そうだね、いや、なんていうかさ、市来くんにこんな話するの重いと思うんだけど」
「えっと、悠介のこと?」
「うん」
夏美は下を向いて両足をベンチから浮かせた。フラフラフラフラ、子どもみたいに足を前後に動かして。
「いいよ別に、なんでも聞くよ。俺はなんて言うか、中立っていうかさ」
「うん」
「まあ、あいつのことはもちろんわかるけど、夏美の立場も考えられるような気がする、みたいな」
「……うん、ありがとう」
「いや、感謝されるほどのことでもないけどさ」
話しながら、自分に嘘をついていることに気がつき、思わず視線を逸らしてしまった。
中立? どこが?
「悠介さ、サッカー部じゃん。うちのサッカー部って結構強いでしょ。あいつ、レギュラーに選ばれたみたいで、ずっとサッカーサッカーなんだよね」
「……うん、知ってる。俺と話すときも、絶対サッカーのことばっかりだから」
悠介は中学の頃からサッカーが上手かった。学校一、いや、市内で一番上手かったのかもしれない。フォワードで足が速くて、背も高い。しかもイケメンだから、女子からの人気もあって。
なのにいい奴だから腹が立つ。
あいつが人の悪口を言ってるところを見たことがない。絵に描いたような好青年。部活だけじゃなく、学校の成績もいい。
俺とは正反対だ。
十六歳になってすぐ原付の免許を取って、深夜にバイクで走り回るようなことを悠介は絶対にしないだろう。
あいつは真面目だし、カッコいい。
ムカつくぐらいにカッコいい。
だから夏美と付き合えてるんだ。
俺にはないものをたくさん持ってるから。
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