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繁華街の中心地からほど近い、路地裏にある一軒のバー。そこはわたしの現在の勤務先であり唯一の安息の場所。
「壱華、こんな時間にどうした?」
「壱華ちゃん、俺に会いたくて来てくれたんだね!」
カウンターでお酒を酌み交わす金髪と赤髪のふたりの男。深夜なので今のところお客さんはその人たちだけ。わたしが店内に入ると、すぐに声をかけてくれた。
「顔色悪いな、大丈夫か?何かあったんじゃないだろうな」
「なんにもないよ。ちょっとオーナーに用があって来ただけ」
「えー、俺に会いに来たんじゃないの?」
心配そうにこちらを見つめる金髪の男は理叶、飄々として、一見チャラそうな赤髪は光冴。2人とも近くの学校に通う高校生だけど、こんな時間までお店にいるのはは少し特別な理由があるから。
「ん?相川じゃないか。どうした、忘れ物かい?」
そのとき店の奥から現れたのは、黒髪をルーズに後ろに流し、スーツで身を固めた男の人。ちなみに相川とはわたしの名字だ。
「オーナー、そうじゃないですけどお願いがあって……。今日は夜の営業はオーナーおひとりだって言ってましたよね。だから、わたしが一緒に朝まで残ってもいいですか?」
「朝まで?こちら側としてはありがたいけど、君明日もシフト入ってるだろ。働きづめで大丈夫?」
「分かってます。でもお金が必要で……」
「そうか。なら金が必要ってことは朝までの分は日払いがいい?」
「はい、お願いします」
優しいオーナーは、急な申し出を承諾してくれた。よし、深夜の時給は2000円だから、朝まで働けば1万円は稼げる。残りは仕方ないから、密かに貯めている貯金から出そうかな。あんまり使いたくはないけれど。
「ちょっと待てよ」
と、店の裏に移動しながら考えている時、理叶の低い声が響いた。
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