化者

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「そうだけどさ、何? 俺小森さんと話したことないよね」 「うん、いきなりごめんなさい」  小森が謝りながら顔をしかめた。先程までにんにく醤油ラーメンを食べていたことを思い出し、ポケットから取り出した口臭ケア用のタブレット菓子を慌てて口へ放り込む。 「一ヶ月後、文化祭でハロウィンの仮装大会があるでしょう。私、それにエントリーしたの。自分を変えたくて……。だけどメイクの仕方がわからないから、日向くんに教えてほしいの」  小森は丁寧に腰を折った。謝礼は払うという。限定パレットを買ったばかりで金欠の俺にはありがたい申し出だ。  しかし、彼女と妙な噂になるのは困る。時代錯誤の三つ編みに瓶底メガネ。クラスで嘲笑の的にされがちな彼女と密会していることがバレたら、せっかく築き上げた俺のカーストが台無しになってしまう。 「日向くんしかいないの、頼れる人が」  小森が言葉を続ける。分厚いレンズの奥で不安げに揺らぐ瞳。 「わかったよ」  冴えない彼女に昔の自分が重なり、ついそう答えていた。口に含んだ大量のタブレット菓子のツンとした臭いが届いたのだろうか。彼女は顔を引きつらせながら笑った。
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