化者

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 私も努力するから、と言った彼女の言葉は嘘ではなかった。三日後、ショートヘアにコンタクト姿の彼女が教室に現れた。他の女子と違いメイクはしていないが、素材の良さが際立っている。俺は胸の高鳴りを抑えられずにいた。  放課後の教室で、小森の真っ白いキャンバスに色を乗せていく。形の良い眉に平行の二重、長いまつ毛、黒目がちの目。オーバーリップで仕上げた唇に思わず生唾を飲み込んだ。鏡を手渡し仕上がりを確認させると、小森は感嘆の声を漏らした。仮装は吸血鬼に決めたらしい。  俺は寝る間も惜しんで彼女に合うメイクを研究した。至近距離で交わす視線、触れ合う指、接近する唇。約一ヶ月の特訓の中で、俺と彼女の距離はぐんぐん縮まった。 「小森さあ、牙とか付けんの? 吸血鬼といえばさ」 「いいね、買ってみるよ。日向くん付けてくれる?」 「はあ? 自分で付けれんだろ!」 「だって器用そうじゃない。ピアスも自分で開けたんでしょ?」  彼女が俺の十字架のピアスを指差す。俺たちはいつしか普通に教室で話すようになっていた。友人たちの羨望の眼差しが心地良い。俺と小森は、特別な関係なんだ。 「日向くんごめん、もうすぐ授業が始まるから……」  悦に入っていると、同じクラスの陰島(かげしま)が遠慮がちに声を掛けてきた。俺は舌打ちし、腰を下ろしていた彼の机から退いてやった。
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