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化者
メイクアップアーティストになりたい。そんな夢を抱くようになったのは小学五年生の頃だ。
美術は元々得意だった。姉のメイク道具をこっそり拝借し、自分の顔をキャンバスに見立てて絵を描いた。そばかす、細い目、色のない唇……魔法の絵の具は全てのコンプレックスから俺を解き放ってくれた。
誰かのためにこの力を使いたい。蛹から蝶への変貌を俺が見届けてやるんだ。そう思うと、涙でマスカラが滲んだ。
「日向くん、メイクが得意ってほんとう?」
チャンスが巡ってきたのは高二の秋だった。昼休みの食堂で、小森はたむろする俺たちに臆することなく声を掛けてきた。周囲の友人たちが含み笑いを浮かべる。俺は彼女を人気のない北校舎へと連れ出した。
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