孤独な演技者

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 我が一族は、数々の騙しや裏切りを受け、その先祖がはるか昔にこの地に落ち着いた。自分たちを追い落とした政権には服従する形をとってはいたが、世代を超えてその恨みは引き継がれ、止むことはなかった。一族が継承しているのは恨みだけではない。さまざまな技術と我々だけが持つ秘密の能力を、盗まれたり知られたりすることのないように注意を払い、おとなしく過ごす中でさらに幾世代を経た。  ある時、我々の持つ秘密の能力のことを知る者たちが現れた。一族の持つ能力とは、空から降ってきた巨石と会話ができることであった。実際、我々が〝お石様〟と呼ぶ巨石は、すでに彼らが我が一族に接近することを告げており、我々は彼らを受け入れた。だが、現政権に代わる世を作ることを理想として掲げた彼らに対して、お石様の意思とは別の思いを我々は抱いていた。お石様のお告げは絶対であったが、我が一族の騙しと裏切りに対する嫌悪と拒否の感情は尋常ではなかったからだ。ーーお石様の意思とはいえ、彼らとともにある先に何が待っているのかがわからなかった。  案の状、彼らは政権を握るために、これまで共に戦ってきたのだという仲間たちを次々と亡き者にしていった。言葉巧みに、根回しを怠らず、反論を許さないように追い詰めていくのであった。恐ろしいまでの冷酷さだった。いずれまた自分たちも、すべてを奪われるのではないか……? かつて自分たちが受けた仕打ち(ただし、現政権がかつて我が一族に行った騙し討ちは道理が通っておらず、一方的で滅茶苦茶だったが)を思い出し、追いやることのできない疑念に苦しめられてお石様に問うも、お石様の返答はなかった。  そしてとうとう、現政権との争いが起きた。それは予想よりも早く、予期してなかった形で訪れたのであるが、誰もが思いもしなかったような形で、彼らは現政権を滅ぼすことはせずに自分たちの支配下に置いた。  我が一族に伝わるのは、その祝宴の最中に人気のない部屋で祈り、震えている当時の当主を、その時の我が一族の当主が見たというものであった。普段の冷たく無表情な主君であることに、一瞬、気づかなかったのだという……。  かつて我が一族からすべてを奪った現政権を沈黙させた主君に、この世の果てまで付き従うのだということを、何世代を経ても我々は疑うことなく日々を暮らしている。
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