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「コーヒー淹れたで」
「わぁ! ありがとうございます」
ふわふわと立ち昇る湯気に乗ったコーヒーの芳醇な香りが鼻先をくすぐる。各々にカップを配る倭斗先生を見上げ、
「先生……場所貸してくれて、ありがと」
尚斗がそう呟く。
少しだけ気恥ずかしそうな色に染まる尚斗の瞳。お礼を言われた倭斗先生が、一瞬動きを止めて尚斗の方を見た。尚斗を見つめる先生の瞳がとろりと下がって、優しい色に染まる。
「たまのことやし、ええよ。楽しんでな?」
尚斗の肩をポンポンと叩く、薄くしなやかな掌──包まれる優しい空気。
尚斗も、そしてそれを間近で見ていた俺も、その空気にあてられるように表情が緩む。
「さー! ケーキ切ろう! 早いとこ食べないと溶けちゃうよ~!」
「アキ、ナイフナイフ!」
「こういうのってだいたい切れ目入ってないか?」
「待って! 取り分けの、ほらあの、下にスッて入れて持ち上げるやつは!?」
「オレが知るか」
「えー!? ちょっと朔、家庭科室から借りてきてよ!」
「あ゛?」
俺たちがのほほんとしてる間に、ケーキの取り分けについて、ああでもこうでもと言い合うみんな。
あぁ、ちょっと待ってってば。
「ちゃんと全部持ってきてますよー。いま出しますか……」
「月冴」
ケーキをひっくり返されちゃ堪らないとばかりに、準備品を入れて持参した紙袋の中に手を入れようとした俺の服の袖を、尚斗がくんっ、と引っ張った。
「ん? なぁに?」
その引き止めに釣られて尚斗の方を見ると、俺を見つめる瞳と視線が交わる。
ほんの少し照れたように、けれど喜びを綯い交ぜにしたような、そんな声で──。
「……ありがとう。すげぇ、嬉しい」
そんな風に言われたら。
得も言われぬ感情が、つま先から頭の天辺まで一気に駆け巡る。
「うんっ!」
目一杯の笑顔で、こたえる。
大好きで大切な君の誕生日。
これからもずっとずっと、一緒にお祝いさせてね──。
【Birthday Surprise!_完】
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