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「美瑠、ジェラート食べに行かない?」
「……今日は、遠慮しておく」
「……ダイアナ先生に言われたこと気にしてる?」
「……、少し」
うそ。
本当はすっごく気にしてる。
「あんまり気にすることないんじゃない? だって美瑠、上手いじゃん」
「……」
上手いって言ったって……――
「じゃあ、また明日ね」
「……うん。また明日」
ひらりと手を振って、友人はレッスン場を出て行った。
一緒に日本から留学してきた、同年代の女の子。
度々コンクールで顔を合わせることがあって、何回か話したこともあった。
すらりと伸びた手足、高い背丈。
「……、わたしより上手いじゃん」
人がいないレッスン場はとても静かで、馬鹿みたいに立ち尽くす自分が鏡の中に立っていた。
平均より少しある身長は日本では目立っても、ここでは埋もれてしまう。手足の長さも、首の長さも全然足りない。足だって小さい。全部、全部、足りない。……足りないんだ、なにもかも。
ポワントはもっと引き上げるように高く、軸足は内向いてしまわないように。ピルエットは軸をまっすぐに、グランパドシャは着地まで丁寧に。
――あなたの踊りからは何も伝わってこないわ
どうして、楽しいだけじゃダメなんだろう。
リノリウムの床にトゥーシューズのつま先がコツンと触れる。
『私この音好きなんだよね』
あの子は、今のわたしを見たらなんて言うかな。
『私、バレエ向いてないと思うんだよね』
バレエをやめてしまったあの子なら……――――
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