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人見知り。
わたしを表す最適な言葉だ。
あがり症。
これもわたしという人間の性格を表すのにふさわしい言葉だ。
人見知りであがり症。おまけに緊張するとお腹が痛くなる。
舞台に上がって大勢の人の前で踊るバレエなんて向いてない。
バレエに向いてないのは明らかにわたしの方だった。
「私、バレエ向いてないと思うんだよね」
そう言ったのは同じくらいの時期にバレエを習い始めた同い年の女の子――涼楓だった。
学校は違ったけれど、同じ曜日にレッスンを受けていたからいつの間にか仲良くなっていた。
「そ、そんなことないと思うけど……」
「背小さいし、足の甲は低いし、おまけに骨太」
「え、全然そんなことないって!」
本当にそんなこと全然なくって、背は確かに周りより小さかったけど足は大きくてトゥシューズで立つと綺麗で、骨太なんて言っていたけど無駄に筋肉のついてない足はすらりとしていて羨ましかった。
「それに、バレエの物語にあんまり興味ないんだよね」
――じゃあ、なんでバレエやってるの?
嫌味でもなんでもなく、純粋に浮かんだ疑問をわたしが尋ねることはなかった。
「美瑠は好きでしょ。くるみ割り人形とかコッペリアとか」
「うん、好き」
トゥパッドをつま先に被せ、トゥシューズを履いた涼楓は慣れた手つきでリボンを足首に巻いていく。
「ああ、でも――」
結んだリボンを仕舞って立ち上がった涼楓は言った。
「私、この音は好きなんだよね」
トントンとトゥシューズを履いたつま先が床を叩く。
「あんまり大きい音立てると怒られるけど」
トゥシューズはつま先に硬いものが入っているから、床に触れるとコツンと音がする。
床に足を置く時はつま先から。ジャンプの着地もつま先から。上手であればあるほど、この音は小さいと言われている。
ポワントで立つ涼楓の足はやっぱり綺麗で、羨ましかった。
自分で付けたと言っていたシューズのリボンの縫い目はまっすぐで、それさえも羨ましかった。
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