完璧の裏側は

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実際に顔を合わせてみると、これが、驚くほど非の打ち所のない男だった。 頭の回転は速いし、落ち着きや振る舞いもソツがない。おまけにルックスも良く、爽やかな好青年だ。 「いや、さすがは社長。長年、老舗の大企業で務め上げられた方は、言葉の重みが違いますね。学ばせていただくことばかりです」 人のことをおだてるのも上手い。思わず、いい気分にさせられる。 ……いかんいかん、今日はひとつ、こいつの化けの皮を剥いでやろうとしていたのに。 「そんな調子のいいことを。内心では、すぐ追い抜かしてやろう、蹴落としてやろうというつもりじゃないのかね、甘峰くん?」 「いえいえそんな、とんでもない! 私の目標は、『世界中の人々を幸せにすること』ですからね」 「そんな絵空事を考えとるのかね、きみは。資本主義社会よりも社会主義の国に行ったほうがいいんじゃないかね?」 「ええ、ええ、首を捻られるのももっともです。何言ってんだこいつ、って思いますよね、あはは」 皮肉を言っても、少しも動じない。 なんなんだこいつは、そんなに目をキラキラさせやがって。 「確かに御社とは競合する部分もありますが、助けあい、高めあっていけることも、たくさんあると思うんです。今日は、短い時間ですが、いくつか提案したくて。まずはですね……」 挑発に一切乗ってこないどころか、魅力的な提案をいくつもプレゼンし、ぜひご検討ください! などと言い残して、奴は爽やかに帰って行った。 うん、どれもうちの会社にとって悪くないどころか、さらなる成長につながるプロジェクトだ。こんなアイデアがぽんぽん出てくるんだから、そりゃ若くして成功を続けられているのだろうな。 ……って、違う違う。 経営者としての長年の経験で見定めようとしたつもりが、完全に相手のペースに乗せられてしまった。 これは、認めなればならないのかもしれない。今までにない、本当に選ばれた才能のある人間なのかもしれないと。 いやいや。 パーフェクトに振る舞うこの男にだって、叩けば何かしらのホコリが出てくるだろう。 何としても裏の顔を見つけて、懇意にしているマスコミ関係者にリークしてやる。そうすれば、今は『若き才能!』と称賛ムードの世間も、一斉に手のひらを返して、奴を叩き始めるだろう――
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