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それからすぐに、使えるだけのコネを使って、甘峰夏樹の身辺調査を開始した。
学業、優秀。
スポーツ、万能。
社交的で人当たりも良く、進学校で生徒会長を務めていた。
大学時代に起業し、そのまま数年で急拡大。今に至る。
うん、完璧な経歴だ。傷ひとつない。
いや違う、これじゃ上辺だけだ、でなきゃ、こんな人間はおかしい。出来が良すぎる。
絶対に、素晴らしい人物であることを、演じているに違いない。
輝かしい表の顔の反動で、どこかに、闇深い一面があるに違いない。
これまでに関わっていた人間に当たっていけば、きっと何か、隠している部分が見つかるはずだ。
「小学校時代のクラスメイトに話を聞きました。クラスのいじめに深く関わっていたそうです」
「おお、カーストの頂点で、酷い指示を出していたとか……」
「なんでも、いじめられっ子を助けて、いじめっ子と和解させたそうです」
「中学生の友人によると、遊びの付き合いは悪かったそうです」
「不満が出るほどとは大概だな。何か、友人に言えないことでもしていたのか」
「家が貧しくて、日々バイトに励んでいたらしいですね。それでも、誕生日には必ずプレゼントを持って駆けつけてくれていたとか」
「高校では、何度か、大遅刻をやらかしていますね」
「わかりやすい汚点だが……まさか……」
「ひったくりの現場に遭遇して、犯人を追いかけて捕まえたり、振り込め詐欺を食い止めたり、木に引っかかった子供の風船を……」
『実はこんなにいいやつ』エピソードばっかりじゃないか。
なんだこいつは。裏の顔も、光り輝いているというのか。
「ええい、まどろっこしい。あれだ、浮いた話はないのか。どろどろの女性関係とか」
「一切ありません。何度か清い交際をしていますが、いずれも彼女側から身を引いています。悪い話はひとつも出てこず、口をそろえて『とても真摯で、心を満たしてくれる人でした。だからこそ、彼の目標のための重荷になりたくなかった』と言っています」
「ええい、そこまで完璧超人か。しかし、欲望には勝てんだろう。美人局作戦はどうなっとる。腕利きのを手配したと言っていたじゃないか」
「バーで誘惑したところ、『そんなことしちゃいけないよ』とこんこんと諭されて帰ってきたそうです。で、彼女、もっと自分が輝ける場を探して足を洗うそうです」
「ぐぬぬ……金は、金はどうだ。不正な根回しとか、豪遊とか浪費する先とか何か」
「実にクリアーです。会社の資産も個人の資産も、何かに遣い込んでいる様子は、いっさいありません」
ううむ。
これはもう、認めざるを得ない。
この世には、裏の顔も表のように、光り輝いている人間がいるんだと。
私も、もう、他人の足を引っ張ろうとするのはやめよう。
世界中の人々を幸せにしたい、などという大言壮語を吐くあいつを、見習うことにしよう。
世のため人のためにできることを、しっかり、じっくり、考えてみるとするか……
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