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「今やそんな悠長なことを言っている場合ではありません。まだ国民には知らせていませんが、前線では大量の死傷者を出し、兵の数が圧倒的に足りていないのが実情です。それに兵器も枯渇し始めています。輸入ができない以上、国民からの供出で賄う他ないのです」
そんな、自身の支持率低下を恐れ、なかなか決断のできない優柔不断な大統領に、私は現状を明らかにして説得を試みる。
「なに、国民は皆、国家と大統領閣下を厚く支持しております。この国のためにならば喜んで軍事作戦に協力することでしょう。それでもご心配というのなら、動員逃がれや批判をする非国民は即刻逮捕して、反体制派の芽を摘んでしまう法令も整備するればよい……最早それ以外に、我が軍の苦境を覆す手立てはありません」
「うむ。そうだな……よし。では、今夜、緊急会見を開いてその旨を伝えよう」
こうして私の提言に背中を押され、大統領は総動員令を発するとともに、本格的な戦時体制への移行をついに決断した。
だが、これが思わぬ結果をもたらすこととなる……。
徴兵されることを嫌った大勢の国民達が、大統領会見の直後から一斉に国外逃亡を始めたのだ。
その数、ゆうに一万人以上……徴兵を拒めば即逮捕とあって、最早、国外へ逃げるしかないと踏んだのであろう。
他方、この動員令に反発し、逆に逮捕も恐れず堂々と政権を批判する者もチラホラと現れ始めている。
「話が違うではないか! どうするのだ!? これでは国民の支持を失うぞ!」
「大統領への責任追求がないよう、総動員令は国防大臣の発案だったことにしましょう。それにもっと締め付けが必要です。逮捕した非国民達をそのまま徴兵して、即戦地へ送り込みましょう。それを見れば、もう政権批判をする者もいなくなるはずです」
思惑が外れ、またも情緒不安定になる大統領を、私はそう言って教え諭す。
「う、うむ。そうだな。早々に対応を頼む」
「なあに、これで我が軍の人員不足は解消されました。今後は反対攻勢に出れるはずです。そうだ! 向こうが勢いづかないよう、投入は早ければ早い方がいい。訓練など現地で行えばいいのですから、集めた順にすぐさま向かわせましょう」
私は真の愛国主義者として、大統領が弱気にならないよう、そんな楽天的な言葉で彼を勇気づけてみたのだが、国内の政権批判は表向き沈静化したものの、国外逃亡者の数は以前増加の一途をたどっていった。
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