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慎重な大統領も、さすがに彼らの言葉を受け入れざるを得ない……なぜならば、ますます我が軍は敗走につぐ敗走を続けていたからだ。
無理もない。兵士の大半は戦闘経験のないど素人であり、いくら物資の供出を国民に強いたところで最新鋭の兵器が作れるわけでもなく、前線に補充される装備すらおぼつかない状況なのだ。倉庫の奥から引っ張り出してきた、旧式の骨董品が与えられるのならばまだいい方である。
「ここはやはり伝統に則り、〝冬将軍〟に頼るしかありますまい。敵国のインフラを攻撃し、極寒と暗闇で士気を低下させるのです」
季節は厳しい冬を迎えようとしている……かつて、攻め込んできた大国を真冬の厳しさが撃退した故事にちなみ、過激派らの立案したこの作戦に起死回生の望みを託すこととなった。
国際法で民間施設への攻撃は禁止されているが、最早、なりふり構っている場合ではない。
「うむ。神がこの土地に与えたもうた〝冬将軍〟は、偉大なる我が国にきっと味方してくれよう」
最早、精密誘導弾は国防に最低限の数しか残っておらず、通常のミサイルも底を尽きつつあったが、そのなけなしのミサイルを大量に発射して、我が軍は敵国のインフラ施設破壊を全力で試みた。
まあ、これはそれなりの戦果をもたらした。敵国のインフラは大規模なダメージを被り、深刻な電力不足に陥ったのである。
ただし、当初想定していたほどの大成功というわけでもない……やはり精密誘導ができないために的を外すものも多く、また、民主主義陣営の提供した防空システムにより、ミサイルの半分以上が撃ち落とされてしまったのだ。
それだけのわずかな戦果で、なけなしなミサイルを使い果たしたことはかなり痛い。再びの作戦遂行は無理であろう。
そして、もっと想定外だったことは、〝冬将軍〟が我が軍にではなく、むしろ敵軍に味方したことだ。
電力不足で確かに暖房器具の稼働には苦労したようであるが、向こうには地の利があるし、民主主義陣営からの手厚い支援物資もある……民間人はもちろんのこと、前線の兵士達も士気を低下させることはなかったのだ。
逆に装備もろくに支給されず、前線に送り込まれた新兵達は惨憺たるものだった……充分な防寒着のない兵達からは膨大な凍死者を出し、また、戦線が膠着するかと思われたこの厳冬期、カチカチに硬くなった凍土を利用して、雪原をものともせずにまさかの敵軍戦車大隊が総攻撃を仕掛けてきたのである。
寒さで小銃の引鉄すら引けなくなっている中、降り注ぐ砲弾に兵達は蹂躙された。
この冬の戦闘だけで、これまでの戦死者を足し合わせても足りないくらいの甚大な被害を出すことになってしまったのだ。
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