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インターネットの発達したこの時代、いくら情報統制をしたところで、ここまで大規模な被害を隠し切れるものではなく、国内では一気に政権批判が活発化し始めた。
特に子供を戦場へ送っていた父母の怒りはそうとうなものだ。国民の一斉放棄もあながち絵空事ではなくなってきている。
「こうなれば、アレを使うしかありません……小型の戦術核を使って、我が軍の優位性を取り戻すのです!」
まさに内憂外患。度重なる作戦の失敗に追い詰められ、最早、他に打つ手なしとなったこの状況下で、ついにその禁断の兵器使用を強硬化の者達が求め始める。
「い、いや、しかし、さすがにそれをしては他国の参戦を招きかねん。それに核の応酬になってはそれこそ人類が滅びるぞ?」
追い詰められたとはいえ、まだ多少の理性は残っているのか? さすがに大統領もその使用には腰がひけている。
「おそらくは大丈夫かと。こちらには撃てても臆病な民主主義陣営が使うことはできないでしょう。それに参戦を臭わすのもハッタリです。なに、敵の殲滅が目的ではありません。小規模な爆発で我々の本気度を見せれば、敵は必ず講和に乗ってきます。後はこちらに優位な条件で停戦に持ち込めば、国内に向けても一応の勝利宣言ができるかと」
そこで私も強硬派の意見に便乗し、この危機的状況を覆すことのできる、最後に残されたカードを切るよう大統領に提案した。
「うむ……最早、残された手はそれしかないか……ただし慎重にやるのだぞ? まずは敵軍が使おうとしていると偽情報を流し、表向きは向こうが使ったことにしよう。さすれば、一枚岩ではない各国の世論を分断し、全世界からの批判も回避できるだろう」
強硬派と私の説得に、大統領も偽旗作戦の条件付きで、いよいよその禁断の一手にGOサインを出した。
数日後、敵軍の核攻撃準備への懸念を主要各国に伝えた後、敵が奪還を試みていた占領地の要衝へ、前線には秘密にして小型戦術核弾頭搭載ミサイルを撃ち込んだ。
だが、結果から言えば、当然のことながらそれは最低最悪の悪手だった……。
戦果はわずかに、前線にいた小規模部隊を我が軍の兵士道連れに壊滅させたのみ。無論、これまで嘘ばかりついてきた我が国の偽情報など誰一人として信じる者はおらず、この切り札で得られたものといえば、人類史上最も恥ずべき国家という嘆かわしい汚名ばかりであった。
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