熱烈なる愛国者

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 いや、そればかりか以前から警告されていた通り、欧米を中心とする多国籍軍が一挙に戦地へと押し寄せ、一日とかからずに我が国の軍は文字通りに壊滅させられた。  また、国連においてもほぼ全会一致で非難決議がなされ、さすがに今回はC、I、Tの三国も我が国を庇うことはなかった。  これに対して強硬派は即時の核攻撃による報復を訴えるが、時を同じくして我が国の内部ではある噂が流れ始める……。  万が一、再びの核兵器使用を意図した場合、そのミサイル基地並びに搭載潜水艦に対して、民主主義陣営による先制核攻撃が行われる準備がすでに整っているというものだ。  また、そうでなくても占領地を奪還した多国籍軍は、一両日中には我が国内への進軍を開始するという……。  それを回避するための条件はただ一つ。現政権を国民自らが否定し、大統領とその取り巻き連中を戦争犯罪者として引き渡すことだ。  情報統制が厳しい我が国にあっても、なぜかこの噂は瞬く間に国の隅々にまで行き渡った。  いったい、誰がこのような噂を流したのか? その犯人は考えるまでもなく明らかだ……そう。この私である。  政権中枢でプロパガンダや情報統制を仕切っていた私が流したのだから、それを拡散することなどわけのないことだ。  総動員と物資供出、それに経済制裁による景気の後退で不満の溜まっていた国民達は、この噂を聞いて一気に反体制派へと傾いた。  大統領一人の失策のために、このままでは自分達まで敵国に蹂躙される憂き目にあってしまう……各地で大規模な暴動が起こり、警察や治安維持部隊でも対処しきれないまでにそれは発展した。  また、絶えず作戦に口出しされた上、その失敗の責任をすべてなすりつけれてきた軍の高官達も大統領には味方しなかった……。  ついにはクーデターを起こし、暴徒達とともに大統領に迫ったのである。  結果、独り孤立した大統領は執務室で拳銃を咥えて自害。隣国のナチス化打倒を大義名分に掲げていた彼が、皮肉にもヒトラーと同じ末路を辿ったのだ。  取り立てられた過激派の連中は各々に逃亡を図ったが、最早、どこにも味方は存在しない。国際指名手配もされ、当局に捕まるか、でなければ暴徒化した民衆のリンチにあって、より凄惨な最期を迎える運命にあるだろう。
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