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なんとも上手くいった。すべて、私の思い描いたシナリオ通りである……。
私は大統領補佐官ではあるものの、本当は熱烈な愛国主義者でも、ましてや大統領のシンパなどてもない。それはすべて、あえて演じていた偽りの姿である。
誰があんな無能で姑息な手段しか使えぬ、愚かな独裁者など支持するものか……。
私は幼い頃、ヤツとその仲間の汚職を暴こうとしていたジャーナリストの父母を、自動車事故に見せかけたやり方で暗殺された。諜報機関出身だったヤツにとっては、暗殺など朝飯前の常套手段だ。
独り残された私は孤児院を経て養子に入った後、猛勉強の末に最高学府を出ると、身分を隠して官僚になった。そして、大統領の熱烈な支持者を装って出世街道を邁進すると、大統領補佐官の地位にまで昇り詰めたのである。
独裁者の常として、身内の裏切りを恐れ、能力よりも自身への忠誠心で人事を行うヤツのお気に入りになることは、なりふり構わぬ私にとっていとも容易いものだった。
あのクソ野郎への復讐を果たせるのならば、プライドも何もすべてを捨て去り、完璧なまでのシンパを演じ切ってみせる!
こうして目論み通りヤツの懐へ入り込んだ私は、いよいよ復讐を開始した……いや、ただヤツ一人を殺すのではおもしろくない。ヤツとヤツに属するすべてのものを叩き潰してやるのだ。
そこで私は愛国主義者をなおも演じつつ、先ずは誇大妄想を抱く宗教家や思想家をヤツの周りにはべらせた。世界的な時代の流れから乖離させ、かつての大帝国復活を目指す夢想家になるよう、マインドコントロールを施すためである。
その一方、愚かな政策に苦言を呈してくれる、賢明なリアリスト達は反体制派と讒言して次々に遠ざけ、上層部をイエスマンと、ただ威勢がいいだけの頭の弱い過激派連中だけで固めてやった。
これでもう取り返しのつかない、愚かな一手を打ってしまう下準備は万事完成だ。
案の定、私が吹き込むまでもなく、イエスマンの取り巻き達に煽てられた夢想家のヤツは、民主主義陣営へ傾き始めた同胞の住む隣国へと、お得意の難癖をつけて侵攻した。
耳障りのよいことしか言わない取り巻きどもに、侵攻は二、三日と要さずに成功すると信じ込まされて。
結果は、これまでの状況を見ての通りである。腐敗と汚職によって名ばかりの軍事大国となっていた我が国の軍は、真の軍事大国の支援を受けた隣国の反抗を前にして、その弱さを露呈することしかできなかった。
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