緞帳を下ろしたのは

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◇  物心ついた時から、あるべき自分がわからなかった。  人と違う自分。  ()()()()()()好きにならない人を好きになってしまう自分。  生きずらい世の中で、唯一自由になれる場所が演劇だった。  性別も年齢も、人種も国籍も関係ない。  いつだって自由があって、いろんな自分に出会える。  そう思っていたのに、篤志と出会ってすぐ、彼は俺の自由な世界に侵略してきた。あいつがオークスじゃ、俺はモナルダになり切れない。  俺は最後まで自分の雑念を取り切れなかった。  袖からオークスのソロを見守る。  モナルダが息絶えて、物語はラストシーンに入っていた。  本番の舞台にやや力んでしまったが、オークスとの最後のやり取りも練習通りに進んだ。  これでやっと自由を取り戻せる――  鳴り止まない拍手の中、俺は再び舞台に駆け出す。向かいの袖から堂々と登場するオークスと舞台中央で落ち合い互いに手を取れば、さらに大きな拍手が沸き起こる。  モナルダである自分と、“早瀬朔”である自分が同時にいるような感覚。昔からカーテンコールは苦手だ。 「なぁ、朔。こっち向いて」  一礼を終えたタイミングで、ふと耳元で囁かれた。  その瞬間、なぜかオークスに唇を奪われる。    まだ緞帳は下りていない。  なんでこのタイミングでそんなことをしている?  それに俺は朔じゃなくてモナルダだ。  俺は不自由な世界で、その意味を知ることになるのだろうか。
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