緞帳を下ろしたのは

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「私が消えても、この歌を忘れないでいて」 「……ああ、絶対に忘れない。忘れるわけがない」 「ありがとう。……オークス、愛しているわ」 「僕もだ。モナルダ、君を愛している……ずっと」 「……この、国を……どうか、幸せ、に……」  弱々しくも最後の力を振り絞った声が、静かに消えた。  腕の中で息絶えていくその人は、視点の定まらない虚な目を少しだけ自分の方へと泳がせて、それからゆっくりと瞼を閉じた。  白い肌で引き立った儚げな表情。その顔に手を優しく添える。別れを惜しみつつも、その美しさに思わずうっとりとしてしまう。  この時間がずっと続けば良いのに、なんて全く状況にそぐわない事をぼんやりと考える。  すると数秒後、目の前の()はパチっと目を開け、難しい顔をしながら起き上がった。 「――うーん、微妙」 「えー、これもだめ?」  ほんのさっきまでモナルダという可憐な美女だった彼は、腑に落ちないと言うように首を傾げる。 「やたらとテンポが良すぎる気がするんだよな。恋人が今まさに死ぬところなんだぞ? それにしては受け入れるの早くないか?」
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