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「うーん、そうかぁ? オークスはモナルダが死ぬ事を前から察してたわけだし、むしろ冷静に看取ろうとする気持ちでやってみたんだけど」
「そりゃ、オークスは一国の王子だけどさ……こんな時まで完璧な人間じゃないと思う。俺はすごく違和感がある」
「わかった。んじゃ、もう一回」
「おう」
先ほどのシーンの板付きの位置まで戻る。
ふと時計を見ると、午後9時になるところだった。自主練習を始めてからもう2時間以上も経過している。休憩も取らずにぶっ続けだが、疲れたなんて気持ちは一切ない。
俺にとって今この瞬間こそが、一番幸せな時間なのだ。
「そうだ、篤志」
「ん?」
「膝から崩れ落ちるのキャッチするとこ、タイミング完璧だった。あの感じでよろしく」
褒められると思っていなかった俺は、驚いてハッと振り返る。
しかしそこに彼はもういない。そこにいるのは、悲痛な思いに我を失いそうになるモナルダだけ。
それを合図とするみたいに、殺風景な狭い練習室が王宮の庭になる。
低い天井には、今にも雷雨が降り出しそうな雲がかかる。
俺は、どこにでもいる大学生から、国を捨ててでも愛する人を守ろうとする高貴な王子になる。
この瞬間がたまらなく好きだ。
どこまでも自由になれるこの瞬間が。
『演劇ってのはな、お前が思ってるよりもずっと自由な世界なんだよ――』
その言葉を信じて、やっとここまで来れたんだ。
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