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愛を知らずに育った孤高の王子が愛の意味を知ったこの瞬間。
「――っ、」
冷たくなっていく唇に、自分の唇を重ねる。触れるだけの軽い口付けは、隙間から吐息が漏れるのを簡単に許してしまう。
ああ、彼女の身体の冷たさを自分の体温で埋められたらいいのに。
愛する人を救えない無力さに絶叫しそうになるのをなんとか抑え、彼女の生きた証を五感に焼き付けた。そしてゆっくり口を離し、彼女からの愛の言葉を待つ。
すると、目の前の彼は血の気のなかった頬を赤らめて、眉間に深い皺を刻んだ。
「っ何してんだよ!!」
朔は乱暴に起き上がり俺に冷ややかな視線を向ける。その時、狭い練習室にアラームの音が鳴り響いた。時間を忘れて練習に熱中してしまう俺たちがあらかじめセットしておいたものだ。切り上げて帰り支度をしないと、守衛が施錠に来てしまう。
「……今日は終わりだ」
ぶっきらぼうに朔が言う。
そして俺は、どこにでもいる大学生に成り下がる――
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