緞帳を下ろしたのは

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 気まずい空気の中、駅までの道を2人で歩く。  いつもなら自主練習の反省会が始まるはずのところに沈黙だけが重くのしかかる。他の学生たちの楽しそうな笑い声が、余計にそれを意識させた。  演技なんて何年もやってきたのに、今の俺は“早瀬朔”を演じることができない。  そうあるべき俺ならこんな時どうするのかと、必死に頭の中で考える。   『なんでキスしたんだよ』  聞きたいことはひとつ。  だが、この言葉のどこに抑揚をつけて、どんな気持ちで言えばいい? 速さは? 切り出し方は? 考えれば考えるほど、自分がわからない。  俺はまた、自由な世界に縛られる。 「――朔ってさ、アドリブ下手なの?」 「はぁ?」  先に口を切ったのは篤志だった。だが、その生意気な発言にカチンときた俺は、それをそのまま声に出してしまった。 「いや、だってさ、モナルダはあんな反応しなくね?」  さっきのキスのことだろう。  演劇ど素人のくせに、いきなり台本とぜんぜん違うことをしておいて俺にアドリブが下手とは何様だ。 「っ、そんなの誰だってびっくりするだろ!」
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