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episode8 Too Sweet プロローグ
「俺達、ファミレスに昼飯食いに来ただけっすよねえ」
「……」
赤堀がそう呟くと三池が無言で川上に目を向けた。
今日は珍しく穏やかな日だった。それでたまには気分転換で外で食べようかと話していたところ何故か課長の滝本も一緒についてくることとなった。一緒に行こうとしていた古株連中がそっと手を下げたのを川上は見逃さなかったが。それで結局は川上は後輩である若手の赤堀と三池と滝本と一緒に近くのファミレスに入った。時間が遅かったせいかそこまで店内は混んではいなかった。すると偶然に見知った顔と出くわすこととなった。金髪碧眼の双子と女性。滝本を見かけるとその女性の行動は素早かった。すぐに滝本の腕を取り、空いてる近くの席に座った。川上は名を呼ばれるがまま双子の隣の席に座った。赤堀と三池はなにかを察して川上と同じテーブルを選んだ。二人はじっと滝本を見つめたままだった。
「早く決めて、注文するわよ。食いっぱぐれるわよ」
「ぱぐれます」
「ぱぐれます」
川上の隣にちょこんと座る双子が口を揃えた。
「その双子はなんすか!」
「おおくらじょうじです」
「おおくらまりいです」
「ほら、あなた達もちゃんと挨拶しなきゃ」
「赤堀、です」
「三池っす」
二人は一緒でいいと川上に注文をぶん投げてきた。食べるものを決めるどころではないらしい。赤堀と三池は再び斜め前の席に座る滝本に目を向けた。滝本の向かいに座る女性はうっとりとした顔で穴があくほど滝本を見つめていた。
「あんなに課長の顔見てそんな面白いか?」
「面白くはないだろ。いつも機嫌悪そうだし」
だよな。二人は口を揃えた。
滝本は無造作にポケットにぶっ差してきた週刊誌を取り出すと熱い視線を遮るように眺めはじめた。女性は負けじと週刊誌の脇から滝本の前に顔を覗かせた。滝本は大きなため息をつくと仕方なさそうに週刊誌をテーブルの上に置いた。
「……なんだ?」滝本は呆れたように頭を抱えながら呟いた。
「せっかく会えたのに顔が見れないなんてつまんなーい」
「顔なんて見たって仕方ねえだろうが」
「私が見たいんですう」
そう言って女性は両手で頬杖をつくと嬉しそうに滝本を見つめていた。
「──俺なら見たくないけど」
「雑誌があってちょうどいいくらいだよな」
なぜ自分と置き換えるんだ? 川上は呆れながら向かいに座る若手二人に目を向けた。二人はずっと滝本と千夏に釘付けだった。だが二人の気持ちが分からないわけではなかった。仕事となると滝本の厳しさは半端ない。それにいつも眉間に皺を寄せて不機嫌そうだし、実際愛想などない。口も達者だし鬼のような理論詰めに誰しもが泣かされた経験を持っている。目下一番泣かされてるのは係長の水戸だろう。仕事以外に興味はなさそうで、かつては家庭も持っていたが仕事のせいで嫁と子どもが出て行ったのは周知の事実だった。
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