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「──高田は誰の紹介で連れて来た野郎だ?」  橋下はファイルをめくった。「本部長の組の若頭補佐ですね」  早川はそれを聞いて鼻で笑った。 「だったら俺達が出張るのはここまでだ。あとは本部長に任せる」そう言ってすぐに電話を始めた。話している様は本当に愉快そうだった。本部長の焦った姿を想像すると橋下も若干胸のすく思いがした。  橋下は菅原のそばに寄って行った。 「頑張ったようだな」 「そうでもないっす」菅原は照れたように答えた。 「なんだビール飲んでねえのか?」 「帰りは車なんで。ほとんど副島さんに運転してもらっちまって」  副島もビールは飲んでいなかった。恐らく自分が運転して帰る気だろう。「コーヒーでも淹れます」と言って楽しげに用意し始めた。 「本当に運転させたのか?」橋下は小声で菅原に尋ねた。 「俺が最初は運転してたンすけど、チンタラ走るなって言われて」  橋下は苦笑した。きっと手持ち無沙汰だったんだろう。 「暇にならねえようにって〈チェンソーマン〉教えたンすけど、あんま好みじゃなかったみたいで」  菅原はそういうと分かりやすくしょげた。確かに自分の好きなものを共有できないのは残念だったのだろう。恐らく副島がそこまで好みじゃなかったのは、普段からあの漫画よりエグいことをしてるからだろうと橋下は思った。 「たぶん副島さんは〈SPY×FAMILY〉派だと思うぞ?」 「そうっすかねえ。じゃあ後で勧めときます」菅原はそう言ってニカッと笑った。 **  高田の姿はその後消えた。  どうやらカネと噂で内部からごたつかせる計画だったらしい。立石を孤立させ、組への忠誠心を揺らがせるのが目的だったようだ。  カネの出処はやはり〈東会〉だった。高田はあっさりと吐いたという。〈東会〉は茨城を拠点とする北関東の大手の組だ。横浜に本格的に進出するつもりで仕組んだのだろう。  高田にカネを借りていた奴は、代わりに組に返済することとなった。それを取り仕切ったのは大倉だった。大倉は相当な怒りようで、嘘の金額など言えるはずもなかった。立石も再度注意されて謹慎期間が伸びた。管理が全然できてなかったという理由だ。これも大倉には相当小言を食らったに違いない。  本部長は次の日、青い顔をして事務所にやって来た。後始末は連れて来た若頭補佐にやらせてると早川に言い訳していた。 「まあ、こっちに寝返らせることが出来なかったのも問題でしたけどねえ」と早川は盛大な嫌味を言っていた。本部長は、またひとつ早川に頭が上がらなくなった。
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