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それからすぐに橋下は朝顔の苗を買って鉢に植え替えて事務所で育て始めた。橋下は日課の水やりのために鉢を持って外へ出た。
駐車場に車が戻って来た。副島だけが降りて来た。橋下はとりあえず挨拶するのに声をかけた。
「あれ? 菅原は一緒じゃなかったでしたっけ?」
「いまお使いを頼んでます。すぐに戻ってくるでしょう」
副島はあの出来事以来、菅原と一緒に行動することが多くなった。菅原も副島の家に泊めてもらったせいか、副島にはすっかり懐いている。
「菅原はどうっすか?」橋下は朝顔への水やりの手を止めて尋ねた。
「まあ、よくやってくれてますよ」副島は何故か自慢げに答えた。「株のグラフも毎日書いて見せに来ますし」
それを見てつい買っちまったんだよな。橋下はチラリと朝顔の鉢を見た。
「菅原はまだシノギの軸ってヤツを決めかねてるようなんで、よろしくお願いします」
橋下がそう言うと、副島はキョトンとした顔をして橋下を見つめた。
「──冗談ですよね?」
「いや、冗談とかじゃないが」
「菅原はもう立派な武器を手に入れてるじゃありませんか?」
あの菅原が? いくらなんでも買いかぶり過ぎではないのか。
「〈情報を制する者は戦いを制す〉ってね。情報を制する力は並外れてますよ。先日の事だって私は車を運転しただけで何もしてません。全部彼がひとりで探しあてましたから。何の情報をどこで仕入れるか、全部分かってます」
なるほど。それで最近可愛がってるというわけか。確かに副島は自分に懐く懐かないよりも、その能力の高さによって付き合い方を決める男だった。
副島は上着の内ポケットから財布を取り出した。
「菅原からのプレゼントです」そう言って自慢げに財布につけたキーホルダーを橋下に見せた。
「〈SPY×FAMILY〉のアーニャです」
「はあ」どうやらよほど気に入ったらしい。副島は満足そうに事務所に入って行った。
橋下はその背中をぼんやりと見つめた。まさかアーニャのキーホルダーで懐柔されたわけじゃないよな?
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